眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

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眼の病気 No.e74

投稿日 2014年7月9日

手術に影響する内服薬について

院長 廣辻徳彦

身体の様々な部位の治療に手術が行われていますが、眼科でも白内障だけでなく緑内障や網膜剥離、斜視や眼瞼(まぶた)など様々な手術があります。高血圧や糖尿病、心臓病や不整脈などで薬を飲んでいる場合、手術時にその薬を飲み続けてよいものかどうか、患者さん自身では判断ができかねることでしょう。一般的には、高血圧の薬は血圧を安定させるために必要なので中止しません。糖尿病の薬は手術前に食事制限があれば薬をそのままの量で使えば低血糖になりかねませんので、手術前後の食事に合わせて適宜調整します。
手術に際して特に問題になるのは、いわゆる「血液サラサラ」といわれる抗血小板剤や抗凝固剤といった種類の薬剤です。これらの薬剤は、脳梗塞を起こした後の再発予防、心筋梗塞や狭心症の治療でステントを入れた後や心房細動などの不整脈での血栓の予防などに用いられます。一般にどのような手術であっても、身体にメスを入れることになるので出血のリスクは避けて通れません。手術の際の出血は手術の出来不出来を左右し、場合によっては生命にも影響を及ぼすこともあります。手術を安全に行うためには薬を止めたい、血栓予防のためには薬を止めたくないという事象は対立することですから、手術や抜歯の際に「血液サラサラ」系の薬剤を止めて臨むかどうかは従来から問題視されてきました。商品名になりますが、代表的なものは以下のような薬剤です。

分類 商品名 休薬期間の目安(出血リスクが高い場合)
抗血小板薬 バイアスピリン、バファリン81
パナルジン、パナジピン
プラビックス
エパデール、エパデールS
アンプラーグ
7日
10−14日
7-14日
3日
1−2日
抗凝固薬 プラザキサ
ワーファリン
24時間
3−5日

現在、少なくとも白内障手術においては、ほとんどの場合これらの薬は中止しません。手術後に結膜(白目のところ)が真っ赤になってしまう結膜下出血が生じることはありますが、これは見た目に格好悪い以外に問題がないものなので脳梗塞のリスクなどとは比べものになりません。緑内障手術や糖尿病網膜症に対する硝子体手術などでは術中出血が問題になることもあるので、それぞれのケースでの判断になります。
近年、白内障手術で問題になるものに、IFIS(術中虹彩緊張低下症候群)というものがあります。手術中に虹彩(いわゆる茶目)がふにゃふにゃになり手術中の水流によってうねったり動いたりする、急に縮瞳(瞳孔が小さくなる)する、虹彩が手術の切開創に挟まり込むなど、とにかく白内障手術がとても難しくなってしまうやっかいな現象です(下図参照)。IFISは前立腺肥大の治療に使われる薬剤で生じることがわかっています。

中心性漿液性脈絡網膜症

※図は左から、手術前の状態、術中の急な縮瞳、特殊な器具で瞳孔を拡張しているところ、無事に終了したところ
商品名ではハルナール、ユリーフ、フリバス、ユリーフ、ミニプレス、バソメット、エブランチル、デタントール(デタントールは高血圧でも使用)などという薬剤で、泌尿器科では最近これらの薬を処方する際に、「白内障手術を受ける際には、この薬を飲んでいることを眼科の先生に伝えるように」と説明していただいているようです。デタントールは緑内障に使用する点眼薬でもありますが、点眼でIFISを生じた報告もあります。抗凝固剤などと違い、これらの薬は休薬しても手術への影響が変わらない(つまり止めても一緒ということ)と言われています。
飲んでいる薬が術前にわかっているだけで、こちらは準備や心構えができます。より安全に手術を行うために、手術前にはお薬手帳などでできるだけ内服の状態などがわかるようにしていただければありがたいと思います。