動物に由来する感染症
院長 廣辻徳彦
私は宝塚市在住ではなく、毎日新神戸駅付近から通勤しています。新神戸駅はすぐ北側に山があり、布引の滝まで歩いて10分ぐらいの場所です。六甲山にはイノシシがいるので、神戸から西宮にかけては街中でよく見かけます。先日は家の前で家族連れのイノシシの一群に遭遇し、裏手にはアライグマも出ました(写真はイノシシの家族の後ろ姿とアライグマ)。さすがに野良犬はいませんが、野良猫はたくさんいます。イノシシに噛まれたという被害も新聞に載ることがあり、アライグマは神社やお寺に住み着いて悪さをすることがあります。実際に、動物から感染する病気(脊椎動物からヒトに感染する病気=動物由来感染症)がありますので、今回はそれについて書きます。
人間は発展の中で行動範囲を広げ、多くの動物と接すると同時に野生動物をペット化してきました。動物由来感染症は地理的に熱帯、亜熱帯に多いのですが、日本は温帯でありしかも島国である、衛生対策が進歩し衛生観念も強いなどの理由で動物由来感染症が比較的少ないとされています。しかし、貿易や人的な面で国際的な交流が盛んになっている現在、他国での感染症が入ってこない保証はありません。上の表にもあるように、感染経路は、かまれる、引っかかれる、排泄物を介するなどの「直接伝播」、何らかの媒介物を介する「間接伝播」があります。「間接伝播」はダニや蚊、ノミなどを介する「ベクター媒介」、水質や土壌汚染を介する「環境媒介」、肉や魚肉を介する「動物性食品媒介」に分類されます。動物由来感染症には狂犬病、回虫症、日本脳炎、日本住血吸虫症、炭疽、O-157、サルモネラ、アニサキスなど、聞いたことのある病気が含まれています。現在、日本には狂犬病と日本住血吸虫症について国内での新たな発生患者はいません。しかし、いくら現在発生がないとはいえ、狂犬病の予防接種は犬の飼い主であれば必ず年に1回受けさせなければなりません。狂犬病は犬だけでなく、猫、アライグマ、コウモリ、狐、スカンクなどが媒介する可能性があり、もし発症してしまえば致死率が100%という怖い病気です。世界中で毎年3−5万人が死亡しているといわれています。日本ではキタキツネが媒介するエキノコッカス症や、セキセイインコ、オウムや鳩が媒介するオウム病の発症も知られています。可愛いペットでは予防接種と登録を行う、動物の身体の清潔を保つ、過度の接触を避ける(口移しで餌を与える、一緒の布団で寝る)、換気を行うなどに気をつけ、動物との接触後は手を洗う、生食は避ける、草むらでは素足で歩かない、蚊やノミへの対策はとる、予防接種を受けるなどの注意はしておく方が良さそうです。
眼科に関連する動物由来感染症の中で、「眼トキソカラ症」という病気は、犬や猫の回虫の虫卵の糞口感染によりその幼虫がヒトの眼疾患を引き起こすものです。トキソカラ症には、犬もしくは猫回虫が眼内に移行して発症する「眼トキソカラ症」と内蔵や筋肉に移行する「内蔵トキソカラ症」がありますが、「眼トキソカラ症」は主にぶどう膜炎を引き起こします。症状は充血、視力低下、飛蚊症や羞明感(まぶしく感じること)などで、回虫に対する抗体を調べるELISA法などで検査します。抗寄生虫薬やステロイド剤、場合によってはレーザー光線で治療しますが、視力が回復しない場合も少なくありません。ペットの糞便の処理、砂場などで遊んだ後に手を洗う、過度の接触は避けるなどの注意は先の通りですが、ニワトリや牛が虫卵を摂食しその体内で寄生していることもあるので、(放し飼いの)ニワトリや牛の肝臓や肉を生食しないようにすることが大事です。
現在西アフリカのギニアとリベリアでエボラ出血熱が発生し、100人以上の死者が出ています。サルやコウモリを食べることから感染し、ヒト-ヒトには血液や体液で感染します(空気感染はしない)。最近日本でもマダニによって媒介され、10−30%の致死率である重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome: SFTS)が報告されています。過敏になってはいけませんが、身近にもいろいろと危険が潜んでいますね。