メタボリックシンドロームと眼 その3
院長 廣辻徳彦
メタボリックシンドロームも3回目。前回は高血圧などがある人におこりやすい眼底出血などを紹介しました。
今回は、網膜にある動脈の病気と静脈の病気についてもう少し詳しく書いてみます。
動脈の病気に「網膜動脈閉塞症」というものがあります。首などの動脈に生じたプラークや血栓や、心臓の不整脈で生じた血栓などが網膜内の動脈に詰まって生じます。詰まる部分によって「網膜動脈分枝閉塞症(図1)」や「網膜中心動脈閉塞症(図2)」と分類されます。閉塞した先の網膜に血液が流れなくなるので、その部分が突然見えなくなってしまいます。血管が詰まっても痛みを感じることもなく、非常に早い経過で症状が出現する眼科の病気の中で最も恐ろしいものの一つです。閉塞後数時間以内で動脈が再開通しないと、以後の視力回復はほぼ不可能と言われています。眼圧を急速に下げる(眼内の房水を抜く)、眼球マッサージをする、点滴をするなどの治療がありますが確実なものはありません。
動脈には「網膜細動脈瘤」という病気もあります。動脈硬化などで血管壁が弱くなったところに圧がかかり、小さな動脈瘤を作ってしまうものです。動脈瘤ができるだけなら症状はありませんが、そこが破れるとその周辺に出血が生じて見にくくなったり、飛蚊症が生じたりします。出血は自然に吸収されて出血した動脈瘤もなくなってしまうことが多いのですが、出血の場所や量によってはレーザー治療や手術が必要になることもあります。
静脈は動脈と比べると血管の壁が薄く、動脈硬化が強いと交叉しているところで動脈に圧迫されることがあります。血圧の変動などによってこの部分で静脈の血流が詰まると、静脈閉塞症という眼底出血が生じてしまいます。これも閉塞する部分で「網膜静脈分枝閉塞症(図4)」、「網膜中心静脈閉塞症(図5)」などに分類されます。出血とともに血液中の水分も漏れだすので、網膜にむくみ(浮腫:図6)も生じます。内服薬だけで治る場合もありますが、眼球の後方へのステロイド剤の注射、レーザー光線や手術(硝子体手術)といった治療を行います。出血した場所や網膜の浮腫(むくみ)の程度によっては様々な治療にも関わらず視力が戻らないこともあり、多くは数ヶ月単位の治療が必要になります。網膜の血流がいつまでも悪いと、血管新生緑内障というやっかいな病気を引き起こすこともあります。
次回は、糖尿病に関係する眼底出血をご紹介します。