眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

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眼の病気 No.e182

投稿日 2023年7月3日

6歳で1.0の視力

院長 廣辻徳彦

本来なら6月10日の「こどもの目の日」に合わせて書くべきところ、月遅れになりましたが子供の視力について書かせていただきます。これまでにも子供の視力や近視などの屈折異常について記載してきましたので、内容が過去記事と繰り返しになるところもありますが、ご容赦ください。
6月10日には「6歳。視力1.0」という意味が込められています。生まれたばかりではほとんど見えていない子供の視力は、1歳で0.2、2歳で0.5-6、3歳で約3分の2が1.0になり、就学時までにほぼ1.0が見えるようになります。しかし、遠視や乱視の程度が強かったり、左右の度数の差が大きかったりする(=不同視と言います)と視力が育たない「弱視」になることがあります。視力の発育は7-8歳までで完成してしまうので、弱視の可能性があれば遅くとも就学前には眼鏡装用などの治療を開始する必要があります。3歳児健診などで屈折異常を早めに見つけ、「6歳までに視力1.0」が育つようにするのが目的です。一般には、裸眼の視力が1.2や1.5というのが正常の視力という感覚かと思います。それは正しいのですが、「6歳までに1.0」という場合には、遠視や乱視の眼鏡を装用してでも「1.0の矯正視力」を得ることを意味しています。医学的には「裸眼の視力がどれだけ悪くても眼鏡をかけて矯正視力が1.0出ていれば正常」、とご理解ください(もちろん1.2や1.5も正常)。
具体的に子供の眼の屈折値をどうやって測るのでしょうか。メガネやコンタクトレンズをされている方なら、視力を測る前に器械に顔をのせて気球や小屋の絵を見る検査をされているはずです。この器械が屈折値(近視や遠視、乱視)を測定するオートレフラクトメーター(オートレフ)です。全ての眼科クリニックや、眼鏡屋さんにも必ず置いてあります。ただ、スクリーニング検査として3歳児健診で行う場合は、検査会場が眼科クリニックではなく保健所や健診センターのことが多いので、全国的に配備できていない状況でした(宝塚市ではオートレフが設置されていて、健診センターと眼科医との連携も良好です)。また、顔を乗せてじっとしていないと測定ができないので、未就学児、特に3歳児では検査ができないこともあります。眼科医会が行った調査で、2021年5月現在で、この屈折検査が行なわれている自治体は全国平均でたったの28.4%という数字で、7割以上の自治体で子供の屈折検査ができていなかったことになります。そこで、眼科医会や眼科学会が働きかけ、厚労省も迅速に対応してくれた結果、自治体に検査器械を購入する際の補助金の交付がされるようになり、2022年6月末には70%以上の自治体で検査可能となりました(下図:47都道府県で青は最初、赤は2回目の調査。群馬、富山、高知はもともと100%)。これには、ポータブルで両眼の検査が一度にでき、しかも未就学児でも高確率で検査可能な「スポットビジョンスクリーナー」という器械が開発され普及したことも背景にあります。母子保健法施行規則に関する省令が改正され(令和 5年 4月 1日施行)、母子健康手帳の様式が見直されて、新たに3歳児健康診査における屈折検査の実施について記録できる欄が設けられることになりました。見つけて治療すれば防げる可能性の高い子供の弱視です。子供に眼鏡というところに抵抗はあるかもしれませんが、治療して視力を育ててあげてほしいと思います。
最近はデジタル端末の普及などの影響か、小学校低学年でも近視になる児童が少なくありません。せっかく育った視力を「6歳からも1.0に保つ」ことも重要です。この場合は裸眼で1.0見えている視力を、近視の変化で下げないという意味になります。過去にも書きましたが、近視の進行抑制には、「30cm以上離れて本を読む、タブレットを使う」、「2-30分に一度は1分程度遠くをしっかり見る」、「1日に2時間程度屋外活動をする」などが効果的と考えられています。近視は眼軸長の延長によって生じるので、訓練や治療で治りません。近視進行に抑制効果があるとされる低濃度アトロピン点眼は保険適応ではないのでまだ処方はできませんが、選定療養として申請されています。クチナシやサフランに含まれている「クロセチン」という物質が、近視の進行抑制に効果があったという報告もあります(いわゆるサプリメント)。近視は緑内障や網膜剥離のリスクとなりうるので、子供の将来のためにも「目を守る」意識を持っていたいと思います。