強膜炎と上強膜炎
院長 廣辻徳彦
今回ご紹介する「強膜炎」という病気を耳にする機会は少ないのではと思います。身体のどこかに炎症がある場合は、「病気の起こっている場所(臓器や組織)+炎」という名前になるので、肺、肝臓、膵臓、心臓の筋肉、結膜の炎症であれば、それぞれ肺炎、肝炎、膵炎、心筋炎、結膜炎という病名になる具合です。強膜炎は文字通り「強膜」の炎症ですが、あまり有名ではないのですぐにはピンとこないかもしれません。
強膜は眼球の一番外側にある膜で、いわゆる白眼の部分にあたります。黒目の部分である透明な角膜とともに眼球の外壁を形作っています。強膜の厚さは、場所によって違いますが0.4- 1mmくらいです。眼球の一番後方では強膜は視神経の周囲を包む鞘(視神経鞘と言います)となって、最終的には脳の外側の硬膜という組織につながっています(下図で強膜は一番外側の緑色の部分)。鏡で眼を見る場合、白目の部分は強膜なのですが、実際には強膜の上に結膜という薄い透明の膜が覆っています。結膜と強膜とはゆるい結合組織でつながっています。今回の強膜炎や上強膜炎は充血が主症状となるのですが、「はやり目」と言われるようなウイルス性結膜炎、花粉症などのアレルギー性結膜炎も同じく充血が主症状です。下図の左が結膜炎で右が上強膜炎です。わかりにくいかもしれませんが、結膜炎ではむくみが強く上強膜炎では充血が強いところが違いです。
強膜炎と上強膜炎とを明確に区別することは難しいのですが、強膜炎の中で炎症が表層だけに留まる状態が上強膜炎であると考えてください。(上)強膜炎では比較的強い充血と異物感や羞明(眩しく感じること)、眼痛が主な症状で、強膜炎では上強膜炎よりも症状を強く感じます。結膜炎では一部だけが充血するのでなく全体的に赤くなりますが、(上)強膜炎の場合は全体が充血するだけでなく、上方だけとか内側(鼻側)だけなど部分的に充血する場合もあります。(上)強膜炎では多くの場合眼脂(目ヤニ)があまり出ません(涙は出ます)。原因がわからないことが多いのですが、慢性関節リウマチや全身性エリテマトーデス、結節性多発動脈炎、多発血管炎性肉芽種症(ウェゲナー肉芽種)、側頭動脈炎などの結合組織疾患(膠原病)や免疫の異常、結核、梅毒、ヘルペスなどの感染症、痛風などが原因となります。強膜炎は生じる場所で前部強膜炎や後部強膜炎と分類され、びまん性強膜炎、結節性強膜炎、壊死性強膜炎と分類することもあります。後部強膜炎では強膜が炎症のためにむくんで視神経を圧迫して視力低下が起こることもありますし、壊死強膜炎では強膜の組織が壊死(組織が病気のために死んでしまうこと)してしまう結果、眼球穿孔から失明に至るということすらあります。
治療はステロイド剤の点眼が第一選択になり、抗生剤の併用も行います。状態によっては点眼だけでなく内服や点滴なども使用し、結合組織疾患などの原疾患があればそれの治療を積極的に行うことも必要になります。一般に当院のようなクリニックで見かけるのは、ほとんどが上強膜炎なので点眼のみの治療で軽快しますが、治りにくかったり再発を繰り返したりすることもあるので、なかなか厄介な病気です。(下図の左は上に示した強膜炎の治療後、中央と右は局所的な強膜炎の治療前後の写真です。充血の違いに注目してください。)