点眼薬の副作用
院長 廣辻徳彦
マンスリーでは昨年2月に「今更ながら点眼薬について」と題して、点眼薬の使い方や保存期間、副作用について、4月、5月には妊娠や授乳中に使用する薬について紹介しました。「薬」を使う際は、「さじ加減」というように経験に基づいて多少の加減をすることはありますが、基本的には治験で得られた結果から「用法、用量」が定められているので、日本中どこでも標準を逸脱して薬を使うことはありません。薬は目的とする「主作用」で病気の治療をしますが、目的外の効果が生じることもあります。治療に不要な、あるいは障害となるような作用が「副作用」です。一般的には薬の使用によって身体に生じた有害な反応について、因果関係を否定できない場合を「副作用」と言います(「薬物有害反応」や「有害事象」という言葉もありますが、今回は副作用で統一します)。
点眼薬は、内服で使われている薬剤の剤形を液体に変えて使用されることもよくあります。その場合点眼薬の副作用は内服薬と同じですが、体内に入る量が全く異なるために副作用としての影響は少なくなります。
今回は点眼薬の副作用に焦点を当てるつもりですが、ほとんどすべての点眼薬は眼局所への副作用があります。点眼薬には薬効の主成分以外にも、薬剤を安定した形で液体に溶かすために添加物や保存剤、防腐剤、pH(ペーハー:酸性やアルカリ性の単位)調整剤なども使用され、これらすべての成分に副作用の可能性があり、点眼される眼球や眼周囲に影響を与えることがあります。具体的には過敏症として発疹、蕁麻疹、眼瞼炎(眼瞼発赤・浮腫等)、眼瞼皮膚炎、そう痒感、 眼局所への影響として刺激感、びまん性表層角膜炎などの角膜障害、結膜炎(結膜充血(図1:点眼前、図2:点眼後)・浮腫等)、眼痛という症状(副作用)が現れます。充血の程度があまりに強かったり、眼の周囲が腫れてしまったり、程度が強い場合には点眼薬の変更や中止が必要となります。特に、多くの点眼薬に使用される防腐剤である「塩化ベンザルコニウム」という成分は、手洗い薬などにも使われますが、角膜に障害(図3:黄緑色の細かい点々の集まりが角膜の障害=薬剤性角膜炎)を引き起こすことがあるで、何種類も点眼薬を併用する場合によく問題となります。この成分はコンタクトレンズにも影響(変形させるなど)があり、特にソフトコンタクトレンズの上からは使用しないようにと書かれています。
点眼薬それぞれに特有の副作用もあります。これまでも紹介してきましたが、緑内障の治療薬はどの種類でも充血を引き起こすことが多く、しかも、生涯にわたって使用したり、2、3種類を併用したりすることも多いので副作用が起こりやすいと言えます。充血以外にも、第一選択となる「プロスタグランジン製剤」には、①睫毛や眼の周囲の産毛を太く濃くする、②皮膚や虹彩の色素沈着を生じる、③まぶたの脂肪が減って落ちくぼんだ眼になる(眼瞼溝深化)などの副作用があります(図4、5は同じ人の左右の眼:図4は点眼していない右眼、図5は点眼のため睫毛や産毛が太く濃くなり色素沈着もある左眼)。β遮断薬には気管支喘息を増悪させる、心臓の働きを悪くする(徐脈)という副作用があり、これらがある人には使用禁忌となります。また、結膜炎やぶどう膜炎という病気の治療に使われるステロイド薬は、長期にわたって使われると眼圧を上昇させたり、感染症を引き起こしたりすることもあります。製剤の性質上、透明でなく濁っている点眼薬(懸濁液)は点眼後しばらく霧視感を生じます。
早期に発見して点眼薬の変更や中止を考えなければならない副作用もありますが、視力を守るという治療の目的上避けられない副作用もあります。よほどの緊急事態の場合は別ですが、自己判断で治療を中断してしまうことは避けて、受診を続けた上で心配がある場合には医師に相談してください。