眼科に関する話題(テレビ番組と新しい点眼薬)
院長 廣辻徳彦
今回は、眼科について最近特集された番組と、新しい点眼薬の話題をご紹介したいと思います。
私たちの目は年齢とともにさまざまな変化を迎え、加齢に伴う老視(いわゆる老眼)などは誰にでも起こります。昨年末に「所さん」が出演しているNHKの番組で、「高齢者に多い病気である白内障が、比較的若い世代にも見られるようになっているという」話題が取り上げられていました。白内障のなかで、20-40代の若い世代に生じるものが「若年性白内障」と分類されています。番組では、アトピー性疾患、ステロイド薬、糖尿病、紫外線、過度なデジタルデバイス使用などが原因で「若年性白内障」が増加しているという内容を放送していました。ただ、私が毎日、実際に診療をしている限りでは、若年性白内障が実感できるほど増加している印象はありません。調べてみると、アトピー性疾患と若年性糖尿病は、以前より増加傾向にあるという統計があります。ですから、その合併症である若年性白内障もその分増加しているというのは正しいと考えられます。アトピー性皮膚炎は乳幼児に発症することが多く、報告によって差はありますが、アトピー性皮膚炎発症後10−15年後に、10%程度の割合で白内障を併発することがあると言われています。紫外線量は、1990年代より数%増加しているとされているので、関連がある可能性があります。紫外線量の増加の原因は、昔はオゾン層の破壊、現在は温暖化による雲の減少や大気汚染物質(エアロゾル)の減少により、太陽光が透過しやすくなったためと考えられています。ステロイド薬による白内障は、年齢に関係なく生じる副作用です。デジタルデバイスについては、現時点で白内障発症との間に確たる因果関係は証明されていないようです。
白内障はその原因(成因)に関わらず、手術が唯一の治療となります。番組では、その手術について、フェムトセカンドレーザー装置というLASIKにも使用されるレーザー装置を使用した白内障手術が紹介されていました。レーザー白内障手術と紹介された方法は、一般の白内障手術では医師の手で行われる切開や濁った水晶体タンパクの分解を、レーザーで行うというものです。人が行うよりも精度が高く、誤差の少ない切開ができる長所があります。ただ、実際のところ一般の手術と比べて、術後のデータや患者さんが感じる差はほとんどないとされています。装置の維持費が高いことと手術が全額自費診療になってしまうという面があり、10年ほど前に比べるとこの手術から撤退している病院もあるようです。一般向けにわかりやすく解説するため、細かな情報がカットされたり、言い切ってしまったりする表現になるところは仕方がないところですが、40年近く眼科診療をしている立場からすると、若年性白内障が特別な話題になる印象ではないので、「番組(話題)作りは大変だな」と感じました。
もう一つの話題、新しい点眼薬というのは、昨年12月に認可され近々発売になるドライアイの治療薬です。「アバレプト懸濁性点眼液0.3%(一般名:モツギバトレプ)」という点眼薬で、世界初となる「TRPV1拮抗作用」を持つ薬剤です。TRPV1とは、カプサイシン(トウガラシの辛み成分)、熱、炎症性物質、浸透圧変化等を感じた時に、その刺激を神経細胞から脳に伝える際に働くものです。有害なものから体を守るセンサーのようなものであると考えてもいいでしょう。拮抗作用とはある働きに対抗する作用のことなので、この点眼薬は眼表面の刺激作用を感じにくくするように作用すると言えます。
ドライアイは「さまざまな要因により涙液層の安定性が低下する疾患であり、眼不快感や視機能異常を生じ、眼表面の障害を伴うことがある」と定義されています。その原因は、大きく分けると、1.涙液減少型:涙そのものの分泌量が減るタイプで、加齢やシェーグレン症候群、内服薬の影響などが原因となるもの、2.蒸発亢進型:涙の量は十分でも、脂分が足りず涙がすぐに乾いてしまうタイプで、まぶたの縁にあるマイボーム腺の機能不全が原因になることが多いもの、3.水濡れ性低下型:眼の表面にある粘液(ムチン)が不足し、涙が角膜に定着せず弾かれてしまタイプ、などに分けられています。
現在は、涙液量を増やすための人工涙液点眼、涙液中の水分量を維持するヒアルロン酸点眼、眼表面に働いて涙の水分を保持するムチンの成分とムチンを作る細胞の数を増やすというムコスタ点眼、ムチンと水分を増やすと同時に角膜と涙をなじみやすくするジクアス点眼、などが治療に使われています。それでも表面にできてしまう角膜や結膜のキズや、まばたきの際に物理的に擦れてしまう刺激による「痛み」や「異物感」、「不快感」が、ドライアイの治療において解決しづらい問題として残っていました。そういった症状にはステロイド点眼薬などを用いていますが、症状が軽快しないことも少なくありません。TRPV1は炎症が起きているところでは活性化され、痛みなどに対して反応するレベルを上げてしまうという性質を持っています。何かで炎症が起こっている部分があれば、通常刺激を感じない温度のお風呂でもヒリヒリ感じやすくなる現象を引き起こすということです。ドライアイで言えば、眼表面で起こっている慢性的炎症のせいで、ますます不快感を感じやすくなっていることになります。「アバレプト点眼液」は、このような痛みや不快感を減じてくれる可能性があると期待されています。当院でも、使用可能になれば試してみようと考えていますので、ご相談ください。





