眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

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眼の病気 No.e191

投稿日 2024年4月1日

薬剤と眼の副作用

院長 廣辻徳彦

紅麹サプリの問題は、副作用ではなく混入した異物による健康障害に分類されるものですが、どのような薬にも必ず副作用というものがあります。「副作用」とは「その薬の主とする作用(効果)に伴って起こる別の作用」のことを言います。起こる頻度が多いかどうか、有害な程度が強いかどうかに関わらず、薬の開発中に行われた治験で報告された事象が含まれます。中には因果関係がはっきりしないものも含まれています。副作用のない薬が理想ではありますが、そのような薬は存在しません。今回は点眼薬以外の薬の眼に関連する副作用をご紹介します。
 内科で薬をもらうときに「緑内障はありませんか?」と聞かれたことがあると思います。ほとんどの緑内障では問題がないのですが、「閉塞(狭)隅角緑内障」というタイプは、睡眠導入剤や風邪薬、胃痛や腹痛の薬に含まれる「抗コリン作用」のある薬で急激な眼圧上昇をきたすことがあります。緑内障という診断を受けていなくても、「閉塞(狭)隅角」の人では同じような反応が出ることがあります。閉塞隅角は遠視の人、比較的小柄な人、高齢者に多いといわれています。遠くを見るときに凸レンズの眼鏡を使っている人は気をつけてください。なお、白内障手術をしていれば閉塞隅角ではなくなるので、薬の制限はほぼなくなります。
 ステロイドという薬も眼に副作用を起こします。有名なものは白内障と緑内障です。いずれも量を使うほど、使う期間が長いほど起こりやすいといわれています。白内障は後嚢混濁という形で起こるのが特徴的で、最終的には手術で治療します。緑内障はステロイドのせいで眼圧が上昇して起こるのですが、同じように使っていても反応が起こりやすいレスポンダーと言われる人がいるようです。内服だけでなく点眼薬や眼軟膏でも長く使う場合には注意が必要となります。眼圧上昇が早めにわかるとステロイドを中止するだけで良いのですが、下がらない場合には一般の緑内障に準じた治療が必要になってきます。
 角膜に障害をきたす薬剤もあります。点眼薬での副作用もあるのですが、今回は全身の薬剤でこのような副作用を持つものをあげてみます。抗不整脈薬のアミオダロンは角膜上皮に渦巻き状の色素沈着を起こします。がん治療によく使われるテガフール、ギメラシル、オテラシルという薬では角膜上皮障害や角膜への異型上皮の侵入することがあります。他の抗がん剤で、パクリタキセル、ドセタキセル、トラスツマブという薬などでも角膜障害の症例が報告されています。アマンタジンという精神活動改善やパーキンソン症候群の治療や A 型インフルエンザウイルス感染症にも用いられる薬では角膜内皮障害から角膜混濁(角膜浮腫)を起こすことがあります。また、精神神経安定剤であるクロルプロマジンでも角膜混濁や角膜への色素沈着が報告されています。
結核は、かつては青年層の300人に1人が死んでいた時代があった病気ですが、最近では高齢者に多い傾向です。結核の患者さんは減りつつあったのですが、最近では以前より増えているとの報告があります。結核の治療に使われるエタンブトールという薬では視神経障害が起こります。結核以外にも非定型抗酸菌症という病気の治療にも使われます。視神経障害はかすんで見える(霧視)、見ようとしているものが見づらい,黒ずんで見える,色調が変わって見えるなどの症状で自覚されるので、エタンブトールを使う前と飲んでいる間は眼科の検査をしておくように担当の内科の先生から指示が出ることが多いはずです。
ヒドロキシクロロキン硫酸塩(プラケニル)という薬は、抗炎症作用や免疫調節作用などを有し、皮膚エリテマトーゼスと全身性エリテマトーデスという病気に対する有効な治療薬として主に内科,皮膚科領域で使用されています。クロロキンという薬には、抗マラリア薬として短期間使用するということで認可されたはずが、どういうわけか科学的根拠もないまま腎炎や慢性関節リウマチなどに適応拡大され、短期使用のみであったものが長期使用できると変更されて「クロロキン網膜症」という薬害を生むことになってしまったという経緯があります。しかし、上記の病気には効果があるため、網膜症の出現の有無を眼科で検査しながら使用することになっています。投与初期から出現するのではなく、累積投与量が多いほど発症率が上がることもわかっています。
経口の抗悪性腫瘍剤であるティーエスワンでは流涙症状が出ることがあります。涙液に溶け込んだ薬の成分が角膜上皮を障害したり、涙が流れていく涙道の上皮を障害して涙道が狭窄、閉塞したりすることで、流涙が起こるとされています。涙液中に含まれる薬の成分を薄めるためにコンタクトレンズに使用する人工涙液の点眼を行いますが、涙道が閉塞してしまうとなかなか治療が難しいとされています。