眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

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眼の病気 No.e215

投稿日 2026年4月3日

眼瞼下垂の治療用点眼薬

院長 廣辻徳彦

5−6年ほど前に一度記事にしている「眼瞼下垂」ですが、昨年12月に眼瞼下垂に対する新しい点眼薬、「アップニークミニ点眼液0.1%(一般名:オキシメタゾリン)」(下図)が承認されました。そこでこの機会に、眼瞼下垂という病気とその治療などについて再度まとめてみたいと思います。眼瞼下垂は一般的に上眼瞼(うわまぶた)が下がっている状態を言います。下に上眼瞼の断面図(日本眼科学会HPより引用)を示します。字が小さいので申し訳ないのですが、上眼瞼は上眼瞼挙筋(濃いピンク色)とミュラー筋(薄いピンク色)という筋肉で引っ張り上げられる構造になっています。これらの筋肉の働きが何らかの原因で悪くなると、眼瞼下垂が生じることになります。

眼瞼下垂には、1.下がってきたまぶたが邪魔になって見えにくい、2.下がったまぶたを引き上げようと無意識に努力して、眉や額の筋肉に常に力が入って頭痛や肩こり、眼精疲労を感じる、などの症状があります。眠そうに見られて嫌であるとか、整容的に気になることも起こります。眼瞼下垂は「先天性」と「後天性」に大きく分類されます。先天性眼瞼下垂は主に小児に起こるもので、多くは生まれつきに眼瞼挙筋の発育不全があることが多いとされています。片眼性でその程度が強い場合は、その眼の視力が発育しない弱視になることがあるので、比較的早期に手術が必要になります。両眼性の場合は顎を上げて下目使いでものを見る(顎上げ姿勢:chin-up)ので弱視にはなりませんが、目立つ場合は整容的観点から就学前に手術をします。他に、「マーカス・ガン現象(下顎眼瞼連合運動現象)」や先天性動眼神経麻痺などの症候群性というものもあります。後天性眼瞼下垂は成人を中心に生じるもので、1.腱膜性(最も多い):加齢による変化、コンタクトレンズ長期装用、内眼手術後の挙筋腱膜の弛緩・断裂によるもの、2.筋原性:重症筋無力症、筋ジストロフィー、ミトコンドリア病などによるもの、3.神経原性:動眼神経麻痺やHorner症候群など、4.機械性・外傷性:腫瘍や眼瞼の浮腫・瘢痕、外傷による挙筋の損傷などによる、5.薬剤性:緑内障治療薬のFP受容体作動薬の副作用による、などに分類されます。
これまで治療の中心は手術でした。細かな手術方法までは紹介しませんが、上眼瞼挙筋の腱膜を手前にずらしたり、ミュラー筋をタッキングしたりするなどで、まぶたを上げる機能を強化し、ミリ単位でまぶたの高さを調整することができます。手術によって視野の改善や見た目の変化を得られます。保険適用もあり、再発する可能性もあるというものの、根本的な改善が期待できるのが大きな利点です(同じ手術法でも、美容が目的の場合は自費治療となることもあります)。
新たに登場した「アップニークミニ点眼液0.1%」は、まぶたの裏側にあるミュラー筋という筋肉のα受容体というところを刺激して筋肉を収縮させ、一時的にまぶたを持ち上げる作用を持ちます。個人差はありますが、点眼後5−15分程度と比較的早くに効果が現れ、6-8時間程度持続するとされています。挙上量はおおよそ1〜2ミリ程度です。構造そのものを治す治療ではなく、あくまで機能的に「少し開けやすくする」ものと言えます。使用の際の注意点は、交感神経に作用してわずかながらでも散瞳作用が働くことから、未治療の狭隅角眼では眼圧上昇の可能性に留意しなければならないというところです。少し乱暴な分け方をすると、手術が「しっかり治す治療」であるのに対し、点眼薬は「補助的に改善する手段」と位置づけられます。点眼だけでは手術ほどの十分な効果を得られにくいとはいうものの、軽度の下垂で日常生活に大きな支障がない場合、手術に踏み切るか迷っている段階、あるいは仕事や生活の都合で手術まで時間を要する場合などで、症状を和らげる手段として有用です。また、自分がどの程度まぶたが上がれば快適に感じるかを体感する、「試用」としての意味もあるかもしれません。
ただ、この点眼薬の費用は自費診療となるので、健康保険が使えません。この原稿を書いている時点では販売されていないのですが、1ヶ月30本で数千円程度になるという予想もあります(別に自費での診療費がかかります)。点眼薬は継続使用が前提となるため長期的な負担が生じますが、手術は一度で効果が持続します。このため、点眼薬を使用したとしても最終的には手術の方が合理的となるケースも少なくないかもしれません。今回の点眼薬の登場は、眼瞼下垂の治療に「手術か我慢か」という二択から、自費診療という壁はあるものの、「まずは試してみる」という「中間的な選択肢」が加わったという意義もあるように思います。
眼瞼下垂は、単なる加齢現象と見過ごされがちですが、適切な評価と治療により生活の質が改善できる疾患です。気になる症状があれば、一度ご相談いただくことをお勧めします。