メガネについて(眼鏡作製技能士)
院長 廣辻徳彦
3年前の12月のマンスリーで「眼鏡を作製(調整)するために国が認めた資格は存在しない」と書きました。「日本眼鏡技術者協会」という業界団体が、一定期間の学習や実務経験をした人に、「認定眼鏡士」という独自の認証をしていた状況だったのです。しかし、今年度から眼鏡作製について国が技能を評価する新しい技能検定資格「眼鏡作製技能士」ができました。せっかくできた資格ですので、今回はこの資格についてと診察時によく体験する眼鏡についてのことを少し書かせていただきます。
資格について、法律で設けられている規制の種類による分類を文科省のHPを参考にして下記に示します。
A) 業務独占資格:弁護士、医師、公認会計士、司法書士のように、有資格者以外が携わることを禁じられている業務を独占的に行うことができる資格。資格がなければその業務ができません。
B) 名称独占資格:栄養士、保育士など、有資格者以外はその名称を名乗ることを認められていない資格。例えば保育士でなくても子供の世話はできますが、保育士を名乗って世話をしてはいけないということです。
C) 設置義務資格:特定の事業を行う際に法律で設置が義務づけられている資格。必置資格とも言い、保育所の保育士、不動産業の宅地建物取引士などが該当します。
D) 技能検定 :業務知識や技能などを評価するもの。この資格がなくても誰でもその仕事に従事できますが、国がその専門技術を認めるというものです。(実際は法律で指定された団体が試験と合否の判定を行います。)
これに加えて、国家資格を行う主体が国、地方公共団体、法律で指定された団体のどれであるかによっても分類されます。例えば、国が行う試験で業務独占資格に当たるのが医師や弁護士、教育職員であり、名称独占資格が管理栄養士、設置義務資格が学芸員であるなどです。
今回の「眼鏡作製技能士」はD)技能検定に当たるもので「国家検定」とも言います。1級と2級があり初めて行われた試験では、1級と2級で約1760名が受験し、約22%の381名(1級26名、2級355名)が合格しました。そこそこ難関のように見えますが、実際は団体で認定されていたSSS〜S級と言う「認定眼鏡士」の方が、特例講習会試験でほぼ100%横すべり認定(1級5708名、2級174名)されたので、「認定眼鏡士」の名称が「眼鏡作製技能士」に変わっただけとも言えます。ただ、眼鏡を作るという行為に資格がいらないのは従来通りなので、訪れた眼鏡店であまり経験のない人に眼鏡を作られたとしても文句が言えないのです。前回も記載したように「認定眼鏡士」である方はこれまでも「眼鏡を作る」ことについてのプロであったわけですから、眼科医としては眼科で処方された眼鏡処方箋を持っていく場合、技術を持つ人に眼鏡を作ってもらうことを推奨したいところです。どういうお店に在籍しているかなどは、新しく「日本メガネ協会」という団体が立ち上がったそうなので、今後加盟店などの紹介がされていくのではないかと思います。
さて、眼鏡についてのお話ですが、よほど顔にフィットしていなかったり枠が歪んでしまったりしている場合はともかくとして、累進多焦点(いわゆる遠近両用)眼鏡が見えにくいと言う訴えをされる方が多い印象です。あと、子供さんのメガネをどう使うかという声もよく聞きます。累進多焦点レンズは1枚のレンズで遠くも近くも見えるように設計されていますが、どこの部分で見てもよく見えるとわけではなく、図のように遠方用は上方に、近方用は下方に度数が入っています。車の運転やテレビを見るときは上の部分、読書やスマホを使用するときは下の部分を意識して使わないと見えない構造です。両サイドにはひずむ部分があるので、横を向く時には目だけでなく顔を動かすことが必要になります。階段を降りる時に目だけで下を向くと近方用で階段を見ることになり感覚が狂うので、顔ごと下を向くようにします。遠近両用に慣れないという場合には、こういうことに気をつけてみるのがよいと思います。子供さんの近視の眼鏡について「必要な時だけかけるのでいいですか」とき聞かれることがあります。
近視の場合は遠くが見えにくいので、度数がゆるくても常にかけておいて全く問題ありません。ただ、近づいて見る癖がそのままだと眼鏡をかけて近業をしていると目に負担がかかりやすくなります。ですから、「いつもはかけていて、読書など近くのことをするときは外してもいい」というのが本当のところです。