眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

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眼の病気 No.e172

投稿日 2022年9月1日

新しい点眼薬(サンヨード)

院長 廣辻徳彦

今回は、9月に上市されることになった新しい点眼薬、参天製薬の「サンヨード」についての話題です。これまでの点眼薬とは全く異なった効能の点眼薬なので、ご紹介したいと思います。この点眼薬は「ヨード」という言葉からもお分かりのように、「ヨウ素」という成分を含んでいます。最近のコロナ感染症でも知られるようになった、うがい薬の「ポビドンヨードうがい薬」と同じ物です。ポビドンヨードの場合はポリビニルピロリドン+ヨード製剤であり、今回の「サンヨード」点眼薬はポリビニルアルコール+ヨード製剤であるという差はありますが、どちらもヨウ素の殺菌作用を利用しています。「サンヨード」の注目される点は、これが初めての市販用殺菌点眼薬であるということです。
実はこれまでも「PAヨード点眼液・洗眼液」という医家向けの製剤は存在していました。成分は「サンヨード」と同じポリビニルアルコール+ヨードです。手術時の洗眼に使用すると術後眼内炎の発生率を下げるというエビデンスがあるので、当院でもこの製剤のお世話になっています。ただ、5ml入りの小瓶を希釈して使用するのですが、希釈後の安定性が悪く、患者さんが持ち帰って使用することは不可能でした。ヨウ素の殺菌作用の有効性は古くから知られていたので、患者さんが自宅で点眼できるような製剤ができないかと日本眼感染症学会が製薬会社にお願いをして、参天製薬が開発してくれたという経緯があったようです。
結膜炎などの感染症の治療としては、抗菌薬と消炎薬の処方が一般的で、私もそういう処方をすることが多いです。しかし、抗菌薬は微生物の中で細菌(いわゆる「ばい菌」)に効果はありますが、ウイルスに効果はありません。ウイルス性の結膜炎でも眼の周囲にいる細菌が分泌物を足場に増殖する可能性を考えれば、抗菌薬が目やにを減らす効果はあるので無意味ではありませんが、理屈では直接の効果は期待できません。それでは抗ウイルス薬を使えばいいという話になるのですが、残念なことに眼感染症で問題となるウイルス感染症については、ヘルペスウイルスにのみ抗ウイルス薬(眼軟膏)がある以外、アデノウイルスやエンテロウイルス、コクサッキーウイルスなどに効果のある薬がないのが実情です。コンタクトレンズの感染症でしばしば問題となるアカントアメーバに対しても有効な治療薬がありません。抗菌薬にしても全ての細菌に有効なわけではありませんし、長期間使用する場合には耐性菌の問題も生じてきます。ヨード製剤の最大の利点は、多くの病原微生物(細菌、真菌、クラミジア、ウイルスなど)の表面タンパクを変性させて失活させるという働きを持つところで、抗菌(ウイルス)薬で問題となる耐性も生じません。治療薬のないアカントアメーバへの活用もできるかもしれません。アデノウイルス対しての有効性についての検証では、急性期の自覚的および他覚的所見への影響は限局的だったものの、アデノウイルス感染症の後期に生じることのある「多発性角膜上皮下浸潤」の発生率を下げたという結果があるようです。
「サンヨード」は安定性の問題から、A液(薬剤液)、B液(希釈液)の組み合わせで販売されます。使用前は冷蔵庫で保管する必要があります。使用前に混合し、Bの希釈液の瓶を使って使用します。混合後、使用できるのは3日以内です。一般の点眼薬は1滴だけ使うのが原則ですが、「サンヨード」は殺菌薬だけでなく洗眼薬としての効能もあるので、1回1〜3滴、1日4〜5回の点眼が用法、用量となります。いいことづくしのようですが、ヨード製剤なので、おそらく点眼時にかなりしみます。ヨウ素は赤紫色をしているので、点眼時にこぼしてしまうと染みになります。また、点眼液を混ぜる際には失敗するかもしれません。もう一つ、この点眼薬には保険適応がありませんので薬局での購入となります。使用法に注意がいるので対面販売が必要になり、本人にのみ原則1人1包装単位での販売との制限がついています。具体的な値段は書けませんが、保険が効かないのと1回1包装のみの購入に限定、しかも3日以内の使用期限となれば、通常の治療で問題ない患者さんにまで使用していただくことにはならないと思われます。ただ、いずれにしても、新しく治療の手段が増えることに文句はないところです。一度自分でも点眼してその使用感を確かめたいところですが、当院でも必要に応じて利用を考えたいと思います。