眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

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眼の病気 No.e123

投稿日 2018年8月1日

眼と異物

院長 廣辻徳彦

7月初めは、過去に例を見ない西日本豪雨で多くの犠牲者が出ました。その後、35度を越す連日の猛暑日、東から西へと列島を横断する台風12号と、予想できないような天気となっています。これ以上被害が出ないことを望むばかりです。災害の現場では、何よりも救命や大きなケガの治療などが必要ですが、少し落ち着くと慢性的な疾患の治療なども必要となります。眼科では、メガネやコンタクトレンズの紛失、点眼薬の不足などがそれに当たるでしょうし、災害の発生時から家屋の片づけや資材の運搬時に異物が飛入したり、何かで怪我をしたりということもあります。異物は目の表面にとどまることもあれば、眼内に飛入することもありますが、今回は眼と異物ということについて書いてみます。
日常、目にゴミが入るということは、歩いていて、自転車に乗っていて、部屋の掃除をしていて、など様々な状況で起こり得ます。多くの場合は入った瞬間に気づいて、つい目をこすってしまいますが、こすると異物が余計に眼の表面に傷をつけます。自然に出てくる涙で流れ出ればよいのですが、できるだけ早いうちに「眼を洗う」のが一番よい方法です。その昔、何かにつけ眼科で眼を洗っていた時代があります。現在はその行為自体にあまり意味がないことがわかっているので、どこの眼科でも眼を洗いません。病気の予防のために眼を洗うという商品も、眼科医がお勧めすることはありません。しかし、異物が入った時、特に薬品などが入ったときだけは、「眼を洗う」ということが一番大切な処置なので、まず行なってください。もちろん、災害現場では眼を洗うための水(もちろん洗いたいのは眼だけではありませんが)がないことも問題となります。
眼の表面に異物が入った場合を「結膜異物」といいます。異物の種類は、砂つぶや木屑、植物片、小さな羽虫、鉄粉など可能性のあるものならなんでもありですが、すぐに取れる場所にあれば洗眼で流れたり、ピンセットで除去できたり比較的処置は容易です。しかし、異物が上まぶたの裏側に張り付いてしまう(図1)と洗眼で洗い流すことができないだけでなく、まばたきをする度に異物が角膜の表面をこすってキズをつけます(図2:角膜上部の黄緑色のスジがキズ)。自分では瞼を裏返して異物を取れないので、この時ばかりは眼科を受診して下さい。張り付いてしまう異物は様々ですが、小さな花の萼(がく)や種子、虫の毛や洗顔料に含まれるスクラブ(小さな粒)などをよく見かけます。作業中に鉄粉が入ることもあります(図3:小さい鉄粉)。鉄は錆びるので、特に角膜に付着した場合には放置すると角膜に色素沈着が生じる、虹彩炎が生じるなどという問題を生じます。錆びたところは一部角膜の組織を含めて取り除かねばならないので、鉄粉を除去した後もその傷が治るまでは痛みが持続します。
異物が眼内に飛入すると事態はもっと深刻です。木片やガラス片は突き刺さっても、折れて眼内に残ることはあまりないので、眼外傷としては重篤ですが「飛入する」ことはあまりありません。草刈り作業中に「石が跳ねて眼に入った」と訴えて受診されるケースも多いのですが、小石などは眼にあたっても眼内に飛入することはほとんどなく、多くは草刈機のカッターの刃=鉄片が飛入しているのです(図4:鉄片の眼内への飛入創;←角膜のキズ、⇦水晶体のキズ、図5:眼内の鉄片)。角膜、強膜、水晶体や網膜など組織のダメージはもちろん、鉄が錆びて眼鉄錆症という白内障や緑内障、ぶどう膜炎や網膜症まで引き起こす重篤な障害となることがあり、早期の除去手術が必要となります。眼という器官は形の修復だけでなく、その機能を守ることが大事なのです。


眼球の異物とは別の話ですが、約30年前、「箸を持ったまま転んで眼に刺さったらしい」という子供さんが救急で受診されました。当時の私よりもさらに若い研修医が診察を担当し、眼球に傷がなくまぶたやその奥からの出血もなかったので、結局点眼薬のみで帰っていただいたそうです。しかし、実際に箸は眼球と上まぶたの間のすき間から頭蓋骨を突き破り、頭蓋内に残っていた異物(折れた箸の先)が原因で翌日に髄膜炎を生じて再度救急搬送されたのでした。数年後「杏林大学割り箸事件」という事件があったので、今でも覚えている一例です。夏祭りで、綿菓子を食べている小さい子供さん、お孫さんからはどうか目を離さないであげてくださいね。