眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

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眼の病気 No.e217

投稿日 2026年6月1日

眼科的な加齢

院長 廣辻徳彦

今回は一つの病気を取り上げるのではなく、加齢による眼の見えにくさを総論的に書いてみます。健診で「視力(1.0)」という結果なら正常と判定されますが、それでも「最近見えにくい」、「人混みで疲れる」、「夜が怖い」という訴えをよく聞きます。視力は大事な指標ですが、物を見るときは、眼球(角膜や水晶体、網膜)、視神経、脳の視覚野(後頭葉)、さらに注意力や空間認識力など、多くの組織や機能を組み合わせています。その大切な組織や機能が加齢によってどのように変化し、それがどのような「見えにくさ」につながるのかを考えてみたいと思います。
加齢による眼の変化で有名なのは、水晶体が濁る「白内障」ですが、白内障と診断される前から、水晶体は変化し始めています。若い頃の水晶体のタンパク質は透明で、光をきれいに網膜へ届けます。しかし、年齢とともにタンパク質の構造が変化し、濁りが少なくても光を散乱させるようになります。すると、本来一点に集まるはずの光が周囲へ広がり、対向車のヘッドライトが以前よりまぶしいとか、街灯の周囲に光の輪が見えるように感じます。前者のような見え方を「グレア」、後者を「ハロ」と言います。また、白内障になると水晶体は少しずつ黄色味を帯び、その結果、青色の光を通しにくくなります。その結果、青系統の色が見分けにくくなり、全体に黄色味がかって見える傾向が出ます。白内障手術の後に、青空がきれいに見えるとか、壁の色が白く見えるようになったと聞くこともよくあります。

他に、加齢による水晶体の変化はコントラスト感度を低下させます。「白い紙に黒い文字」はコントラストが高く、「白い紙に薄い灰色の文字」はコントラストが低いと表現できるもので、同じ大きさの文字でも、後者の方が読みにくいことは容易に想像できるでしょう。ですので、コントラスト感度とは、「物の輪郭や濃淡を見分ける力」と表せます。視力検査では白地に黒の記号という「コントラストの高い」状態で検査するので、コントラスト感度低下は見逃されがちですが、コントラスト感度が低下すると、夕方の階段や雨の日の道路、薄暗い室内などで「見えにくい」と感じたり、つまずきやすくなったりします。コントラスト感度を測定するための視力表を図に示します。小さい印刷ではわかりにくいですが、「B、C」の縞模様が1-8の○の上下どちらに描かれているかを読み分けて測定する仕様になっています。(Nikon社 HPから引用。上は通常の視力表、中の2段がコントラスト感度用視力表、下の写真はコントラストの説明に用いるもの)
網膜にも加齢の変化は起こります。網膜はカメラのフィルムや撮像素子にあたる部分で、光を感じる細胞(視細胞)を有しています。視細胞には、明所で働いて色を見る「錐体細胞」と、暗所で働く「桿体細胞」があります。桿体細胞は、暗い場所で次第に見えるようになる「暗順応」で重要な働きをするので、この働きが弱くなると暗さに適応する力が落ち、運転中などでトンネルに入った時に「暗さに目が慣れない」といった症状が出ます。さらに、視細胞を含めて網膜の細胞も全体的に老化してしまうので、その結果、薄暗い場所や濃淡の少ない景色では、物の輪郭を見分けにくくなります。網膜から脳へは、神経を通じて「形」や「色」だけでなく、「動き」についての情報も伝達されます。神経伝達速度が低下すると動体の検知が遅れるようになります。動いている物の変化を瞬時に捉える力が低下するため、車の流れや人の動きを追うのに時間がかかるようになります。同時に、脳での「視覚処理」にも変化が現れます。目から入った情報は、後頭葉にある視覚野で処理されます。風景を見るとき、脳は多くの情報から、形や色を認識し、距離を測り、動いているものなども認識して必要な情報を選び出し、「意味のある景色」として理解します。この情報を整理する能力が低下すると、スーパーで「探し物が見つからない」、「たくさんの商品を見ていて疲れる」ということが起こります。加えて、「周辺視野から得た情報を統合する能力」、言い換えれば「視界の端にある情報にも注意を向ける力」も低下し、横から来る人や車への反応が遅れる場合があります。さらに、人間の目は、物を見るときに無意識のうちに細かく動いて、文章をスムーズに読んだり、景色を見る際に滑らかに眺めたりしています。加齢で眼球運動の速度や正確性が低下すると、視線の移動がスムーズにできなくなり、「新聞を読みにくい」、「読み飛ばしをしやすくなる」、「字幕を追いにくい」などの症状が出てきます。
このように、加齢による“見えにくさ”は、単なる視力低下ではなく、水晶体、網膜、神経、脳の働きが少しずつ変化することで生じます。「視力は良いのに見えにくい」という感覚も、決して気のせいではありません。年齢のせいと決めつけず、気になる症状があれば眼科で相談してみてください。私も60代半ばになり、20代のようにはいきませんが、目も身体も年齢相応に変化していくことを受け入れながら、それに合わせて過ごしていかなければならないかと思っているところです。