治療の進歩(年の初めに)
院長 廣辻徳彦
年が明け、平成26年になりました。今年は官公庁など仕事始めが6日からなので、いつもより長めの年末年始休暇です。それでも最近は、お正月は元日と2日ぐらいまでのような気分になってしまいます。毎年一つずつ年を重ねていく訳ですが、それだけ成長できているかといえばまだまだ胸を張れないところです。それでも医学は着実に進歩していくので、合わせてついていかねばなりません。眼科医となって25年を過ぎますが、いろいろな分野での進歩とこれからの展望などをまとめてみました。表現上、昭和の終わり頃を「昔」と書いています。
当院でも日帰りで行っている白内障手術は、昔は入院が必要でした。大きな切開をしていたので、キズを縫合しなければならなかったからです。現在では標準の超音波乳化吸引術が行われるようになる過渡期にあたり、器械の進歩で小さい切開での無縫合手術へと変化し、さらに眼内レンズがシリコンやアクリルという「曲げられる」素材に変わったため切開はさらに小さくなりました(下図参照)。今では入院する方が少数派です。眼内レンズも自然な色合いでものが見られる「着色レンズ」、 乱視の矯正用の「乱視矯正レンズ」は保険適応になっています。手術器械も安全性が高まるように進化し、ナイフより精密な切開ができる特殊なレーザー(フェムトセカンドレーザー:自費診療)も開発されています(しかし、その差を患者さん自身が自覚できるかは微妙で、何十万円ものお金を費した満足感が大事なのかもしれません)。「遠近両用眼内レンズ」も付加価値レンズとしてさらに普及してくると思われます。また、多少光がにじんで見える傾向があるので、若いころと同じように見えるわけではありません。将来的には、現在の素材とは全く異なる原理での遠近両用眼内レンズなどの開発が待たれています。
網膜剥離や黄斑部疾患の治療も進歩しました。網膜剥離といえば眼球周囲にシリコン性のスポンジやバンドを巻く「強膜内陥術」や「輪状締結術」という手術をしていたのですが、昭和の終わり頃から硝子体手術が急速に進化し、眼球に優しい手術ができるようになりました。黄斑上膜や黄斑円孔といった、「診断がついても手が出せなかった病気」も手術、治療が可能です。過渡期には硝子体手術特有の合併症が多く見られましたが、最近では小さい切開から手術ができ、縫合もいらない硝子体手術が主流となってきています(下図参照)。また、OCTという機器の開発によって網膜疾患の診断が飛躍的に向上しただけでなく、病態の解明に役立つようになりました。黄斑変性症も治療不能だった病気ですが、硝子体手術の進歩で黄斑下の新生血管を引き抜くとか黄斑部を移動するという手術が試みられ(最近では行われていません)、現在は抗VEGF剤やトリアムシノロンというステロイド剤、PDTという特殊なレーザーで治療されるようになってきています。
緑内障治療では、プロスタグランジン製剤などの新しい薬剤の開発で、眼圧下降が十分に行えるようになりました。また、「多治見スタディ」という大規模調査で、緑内障の有病率(人口の中でどのぐらいが病気であるかという割合)が明らかになりました。また、診断が眼圧の高低でなく視神経の評価で行われるようになり、早期の診断に役立っています。網膜疾患と同じOCTという器械が、緑内障の診断や評価に用いられています。手術治療では大きな術式の変化がなく、トラベクレクトミーという手術で切開方法や抗ガン剤を手術時に使用するという改良が主なものでしたが、近年「エクスプレス」や「バルベルトインプラント」という器具がつかえるようになり、今後の治療に期待がもたれています。短い文面では書ききれませんが、進化について行くのも大事な仕事ですね。