近視、老眼って?(屈折異常と調節異常) その3
院長 廣辻徳彦
今回は遠視についてのお話です。遠視とは、調節をしていない状態で光(平行光線)が網膜より後ろに焦点を結んでしまう状態をいいます(図1、図2)。遠くのものも近くのものもはっきりと見ることができません。角膜や水晶体の屈折力が弱いために起こる遠視と、眼球の長さが短いために起こる遠視とがあります。凸レンズを用いて矯正します(図3)。人間の眼の大きさは、生まれたすぐには小さくほとんど遠視の状態です。成長とともに小学校に入学するころは大きくなり、遠視もなくなっていきます。わずかな遠視では無意識の内に調節力を働かせてピント合わせをしているので、遠視があっても良好な視力が出ます。視力が出るので「遠視はよい目」という誤解が生まれているようですが、そのような眼でも調節力が衰えてくる(=老眼が出てくる)頃になると、裸眼では視力が出にくくなってしまいます。小さいお子さんの遠視で調節を最大限に働かせて焦点を網膜に近づけてもピント合わせができない場合、視力が育たない「弱視」という状態になることがあります。視力は小学校低学年までで発達が止まってしまうので、後になってからは治療ができません。こういった強い遠視の場合は小さいうちからのメガネが必要になります。「メガネをかける」のをかわいそうという親御さん(特におじいちゃんおばあちゃん)もいらっしゃいますが、「視力が育たない目になる」方がよほどかわいそうな状態だと思います。
次は、乱視についてのお話です。乱視とはよく聞く言葉ですが、なかなか理解しにくい病態です。人間の眼には角膜と水晶体という2つのレンズがありますが、機械ではないのでわずかながらにゆがみが存在します。このゆがみが乱視です。紙でできたピクニックで使うお皿を思い浮かべてください。この皿を机に逆さに置きます。完璧にふちが机についているでしょうか?わずかにゆがみがあるはずです。このひずみのように角膜や水晶体にもゆがみがあり、こういった眼を乱視と呼ぶのです。通常の乱視用のレンズで矯正される眼を「正乱視」、円錐角膜やけがなどで生じた特殊な場合を「不正乱視」と呼んで区別します。よく乱視があるからと言って「悪い目」ではないかということを耳にします。乱視を矯正するために余分のレンズがいることは事実ですが、裸眼の視力がよいか悪いかではなく、矯正してよい視力が出る目は「良い眼」なのです。乱視があるだけでは決して「悪い眼」ではありません。
最後に老視(=老眼)のことについて書いておきます。これまでにも説明しましたように、老視とは近くにピントを合わせる調節という力が衰える状態です。個人差はありますが、45歳ぐらいで始まり、60歳過ぎまで進んでいきます。近視でも遠視でも老視が始まる年齢に変わりはありません。また、老眼鏡を使うかどうかで進み方が変わることもありません。「近視の人は老眼にならない(なりにくい)」というのは全くの誤解です。近視の場合は手元をメガネなしで見ることができる場合があるので、そのように思われてしまうのでしょう。「遠視だと早く老眼になる」というのも誤りです。老視になる時期は変わらないのですが、遠視がある分近くにピントを合わせられないので少し早めに老眼鏡が必要になるだけです。一般には「老眼鏡を使う=老視の始まり」という感覚があるようですが、そうではないということなのです。
よく耳にする近視、老眼などでもこのように説明しだせばきりがありません。メガネひとつ合わせるだけでも、むつかしいことがあります。またいずれ、機会があれば説明したいと思います。