眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

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眼の病気 No.e94

投稿日 2016年3月1日

新生児の涙とメヤニ(先天鼻涙管閉塞)

院長 廣辻徳彦

春はアレルギーの季節です。3月に入り、花粉症で症状の出てきた方もいらっしゃると思います(私もその一人です:花粉症などアレルギーについてはマンスリーのNO.38,39,57をご覧ください)。今回は涙、メヤニを症状とする病気で、新生児に起こる「先天鼻涙管閉塞」を取りあげます。「先天鼻涙管閉塞」は育児書などにはよく記載されている病気ですが、子供さんが成長すると関わりがなくなってしまうので、あまり馴染みがないかもしれません。
 涙は下図1に示すように眼の外上方にある涙線で作られ、上下の眼瞼(まぶた)の内方にある(上下)涙点というところから涙のう、鼻涙管を経由して鼻(鼻腔という部分)へと流れていきます。同じような図になりますが、下図2の小さい矢印の部分が上下の涙点、そこから上下の涙小管を経由して、大きい矢印の上部に当たる涙のう(灰色の部分)、下部に当たる鼻涙管(白い部分)を通るという流れです。
 「先天鼻涙管閉塞」は、鼻涙管が鼻に開口するところで閉塞しています。涙が鼻腔へ通らなくなるので、生後1か月以内に流涙(涙目)やメヤニが出てくる、眼と鼻の間の涙のう部を圧迫した際に膿や粘液が逆流してくる、という症状で気づかれます。病院ではこれらの症状と、涙管通水検査(先端が丸く加工された細い注射針を使って涙点から生理食塩水を涙管へ注入し、液が鼻腔へ流れるかどうかを確かめる検査)や色素消失検査(フルオレセインという黄色い検査薬を点眼し、数分後に検査薬が眼表面に残っていうかどうかを確かめる検査:鼻涙管が閉塞していれば検査薬が眼表面に残る)を行って診断します。この病気の頻度は意外に多く、新生児の1割弱~2割程度に発症するといわれています。しかし、生後3か月以内に約7割、1年以内に9割~9割5分が自然に治癒することがわかっており、緊急の治療は必要としません。生まれつき涙が通りにくいことが原因で生じる病気なので、生後から何も症状がなく2、3カ月を過ぎて起こる結膜炎に併発する涙目やメヤニとは異なります。

図1:涙の流れ 図2:涙点と鼻涙管 図3:ブジーのイメージ
 最初の治療としては、涙のう部マッサージや抗菌剤点眼での経過観察を行います。メヤニが多い場合や涙のう部の圧迫で膿が逆流する場合は抗菌剤点眼を併用しますが、流涙(涙目)の症状だけであれば抗菌剤点眼は使わないで構いません。1週間以内にメヤニは少なくなるので、その場合は点眼剤を休薬します(出れば再開)。目頭の内側、鼻の骨よりも外側に涙のうがあります(図1で◯の部分)。乳児では鼻筋も通っていないのでわかりにくいのですが、鼻の骨の外側で少し柔らかなところです。涙のうマッサージは、ここを指で下方に力がかかるように圧迫します。多くは1年以内に治癒するので急がないのは前述の通りですが、メヤニや膿が多くて結膜炎や眼瞼炎を繰り返したり、涙のう炎(涙のう部が腫れる状態)を伴ったりする場合には、先天鼻涙管開放術(ブジー)を行います。
 ブジーとは、先が丸く加工された針金状のブジー針を涙点から挿入し、鼻涙管を閉塞させている膜を突き破るという方法です。上図3のように行います(鼻から針金が出てくることはありません)。外来でできる処置(手術)ですが、いつ頃ブジーを行うかについてはいろいろ意見があります。私は、マッサージを行っても症状がなくならない場合で、5、6ヶ月ごろから1歳までに行うのが良いかと考えています。早過ぎる場合は自然治癒の機会を奪いかねませんし、子供が大きくなると術中の固定に困難が生じるからです。多くは1回のブジーで治癒しますが、開放したキズが治ってしまい、再度閉塞する場合もあります。2回目以降のブジーでの治癒率は低いので、そのような場合は、専門病院(阪神間なら尼崎総合医療センターなどを紹介しています)で涙道内視鏡という特別な器械などを利用して治療するのが良いでしょう。また、ブジーをする際に、涙道内に膿などが残留していることもあり、大変「まれ」ですが、ブジー後に発熱や、ひどい場合に敗血症や髄膜炎という感染症が生じることもあります。乳児に異常を感じることがあれば親御さんはご心配と思いますので、またご相談ください。