眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療社団法人 広辻眼科

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眼の病気 No.e77

投稿日 2014年10月1日

iPS細胞の臨床研究が始まる!(1)

院長 廣辻徳彦

STAP細胞の件で、神戸の理化学研究所(理研)は妙に有名になってしまいました。しかし、理研の計算科学研究機構はスーパーコンピューター「京」を生み出し、発生・再生科学総合研究センターではiPS細胞由来で作製された様々な細胞を用いた研究をしていることでわかるように、理研というところは日本の研究を牽引している施設の一つなのです。今回と次回は、iPS細胞を用いて理研が開始した世界で初めての臨床研究について書いてみます。
研究の正式名称は「滲出型加齢黄斑変性に対する自家iPS細胞由来網膜色素上皮シート移植に関する臨床研究」といいます。最近日本でも増加傾向にあり、欧米では失明原因の第1位である滲出型加齢黄斑変性という病気に対する新しい治療の研究です。患者さん自身の皮膚から採取した細胞を用いてiPS細胞を作製し、そのiPS細胞から「網膜色素上皮細胞(RPE)」を作りだしてシート状になるまで増殖させ、それを加齢黄斑変性の患者さんに移植するというものです。以前の記事にもありますが(マンスリーの目の病気N0.44.45.46)加齢黄斑変性という病気には「滲出型」と「萎縮型」の2種類があります。このうち、新生血管が関与する滲出型に対しては、近年抗VEGF抗体(商品名:ルセンティス、アイリーア、マクジェン、アバスチン)の注射が広く行われています。以前は黄斑部を移動させる手術(黄斑移動術)や、新生血管で悪くなったところを取り去ってしまうという手術(新生血管抜去術)を行っていた時期もありましたが、合併症が多かったり、新生血管と一緒に視力維持に重要な網膜色素上皮層もなくなったりしてしまうので、安全性や視力回復という点で行われなくなりました。
滲出型加齢黄斑変性は、下左図で網膜の中心部に当たる黄斑部に新生血管を生じる病気です。黄斑部に生じた

iPS細胞の臨床研究が始まる

新生血管が黄斑部で出血や浮腫を生じて視力を低下させてしまいます。現在は、抗VEGF抗体の注射、PDTというレーザーが治療の主流ですが、血管が瘢痕化して視力が回復しないこともあります。それでも昔に比べれば十分な効果といえるのですが、さらに回復の方法がないかと研究がなされています。今回の研究も、その新しい治療法の開発を目指していますが、第一の目的は「iPS細胞由来の細胞を用いて行う治療における安全性の確認」であり、一足飛びに治療法の確立を目的にしているわけではありません。
研究を行うためには患者さんの選定や治療の説明・同意などいろいろなプロセスが必要です。同時にiPS細胞から作られる網膜色素上皮の安全性や倫理的・法律的な適合性も確認しなければなりません。研究を担当されている先生が書類を作成するために費やす時間は相当なはずです。さて、患者さん側の流れは以下のようなものです。
1.研究への説明・同意のもと、適格性の検査・登録(病気のタイプや状態などから選定されます)
2.上腕部から皮膚の採取(直径4ミリ:数カ月かけてiPS細胞→患者由来RPE細胞作製→RPE細胞シート作製)
3.再度適格性の検査・二次登録
4.患者由来PS細胞由来網膜色素上皮シート移植手術(今回は6症例の予定)
5.1年後まで観察・評価、3年後まで追跡調査

患者さんが受ける手術

患者さんが受ける手術は上記のとおりです。新生血管抜去術によって障害される色素上皮のところに新しく作製したRPEシートを移植します。新生血管抜去術自体はこれまですでに行われている手術で、そこにRPEシートを挿入・移植する手技も、経験ある術者であれば安全に行えるものです。今回の研究は、私たち眼科医がこれまでに培ってきた技術があることで実現されている側面もあります。(次回に続きます。)
(今回の図、内容は理化学研究所のHPを参考にし、かつ引用させていただいています。)