眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

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眼の病気 No.e166

投稿日 2022年3月1日

眼と神経(その2)

院長 廣辻徳彦

前回は脳神経12対の中でⅡ:視神経の視覚についての働きを書きました。眼球には内直筋、外直筋、上直筋、下直筋、上斜筋、下斜筋という6種類の筋肉があり、眼球を動かすⅢ:動眼神経、Ⅳ:滑車神経、Ⅵ:外転神経のうち、動眼神経は内直筋、外直筋、上直筋、下斜筋の4種類、滑車神経は上斜筋、外転神経は外直筋の動きを支配しています。カメレオンは左右の眼を違う方向(エサを捉える時には両眼を同じ方向)に向けて世界を見ていますが、ヒトでは三つの神経が共同して動いて左右の目で同じものを見ます。例えば眼を右に向ける時は右眼の外直筋を支配する外転神経と左眼の内直筋を支配する動眼神経が働くのですが、それと同時に右眼の内直筋を支配する動眼神経と左眼の外直筋を支配する外転神経は働きを止めています。これらの動きのバランスが自然に調整されているのです。しかし、何らかの原因で神経が麻痺するとその神経が働くべき筋肉の動きが悪くなり、両眼の動きのバランスが悪くなって物が二重に見える複視という症状が出ることになります。

右眼の外転神経麻痺では右眼の外向きができにくくなります。正面を見ていても外向きの力が弱いので右眼が内斜視という状態になって複視を自覚します(上図)。右を向こうとしても、右眼の右向きができにいのに左眼の動眼神経は働くので左眼だけが右に動いて複視の見え方が悪化します(中図)。逆に左を向こうとする場合は、右眼の動眼神経は働くので内側に向くことができ、左眼は外転神経の働きで外に向けるので複視が少なくなることになります(下図)。
上斜筋を動かす滑車神経の麻痺は少し難しいのですが、上斜筋の眼球を下に向ける(下転)、内側に向ける(内転)、内側に回す(内旋)作用ができにくくなってしまうと考えます。右眼の滑車神経麻痺の場合は下転と内転ができにくいので上外方にずれて上斜視+外斜視という状態になり、内旋ができにくくなります。(正面を向いているときに回転状態はなかなかわかりません)。右を向く時に右眼の上斜筋の働きは小さいのでずれが少なくなって複視の症状がましになり、左を向く時には眼位ずれが大きくなります(上の二つの図)。右眼球を内側に回転させにくくなっているので左側に顔を傾けると複視が少なくなり右側に傾けると複視が悪化します。(下の二つの斜めの図)
動眼神経の働きは内直筋、上直筋、下直筋、下斜筋に及んでいます。典型的な動眼神経麻痺では4つの筋肉の動きが悪くなります。上下の筋肉の動きが麻痺することで相殺されてあまり上下には眼位ずれが起こりませんが、内直筋の作用である内向きができにくくなるために眼球が外を向きます(外斜視)。また、動眼神経は外眼筋を動かす以外にまぶた(眼瞼)をあげる上眼瞼挙筋と眼球の中でピントを調節する毛様体筋や、虹彩の中にあって光に反応してひとみ(瞳孔)を小さくする瞳孔括約筋も支配しています。動眼神経麻痺では瞼を挙げにくくなり(眼瞼下垂)、瞳孔が散大する(ひとみが大きくなる)という症状も現れます(一番下の図)。特に注意すべきはひとみが開いてしまうタイプで、この場合はある程度大きくなった脳動脈瘤が原因になることがあり、速やかな脳外科受診が必要になります。
脳神経の中ではⅤ:三叉神経も眼球に関係します。三叉神経は眼球の後ろの方で3本に分かれた後、第1枝は眼球の上内方の眼窩縁、第2枝は頬部、第3枝は下顎から顔面に出て顔面の知覚を支配します。角膜や眼球の知覚も三叉神経が感じています。Ⅶ:顔面神経は表情筋(顔の表情を作る筋肉)を支配しています。まぶたを閉じるのもこの顔面神経が働きで、涙腺の分泌にも顔面神経の中の副交感神経が働いています。顔面神経麻痺が起こると、下まぶたが下がり、頬がたるんで、口角が下がって生じた側の表情が作れなくなります。下瞼が眼球に接着しなくなると眼球が乾燥してしまうのでその刺激で流涙症状が強くなりますが、程度が強いと乾燥を防ぎきれず角膜の傷から感染症が起こることもあります。視力などには関係しませんが、Ⅹ:迷走神経に関係する迷走神経反射というものがあります。副交感神経の働きで徐脈や血圧低下や失神などが起こるというもので、コンタクトレンズに慣れないうちに目を触っていて気分が悪くなるのもこの反応であることが多いです。