眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

(受付)午前8:30〜 午後2:00〜 (休診)土・日・祝祭日・年末年始 ご予約・お問い合わせ0797-72-6586

眼の病気 No.e164

投稿日 2022年1月6日

再び視力について

院長 廣辻徳彦

還暦で初心にかえってということで、2018年の記事と重なりますが眼科の基本である視力についてです。
視力は、ランドルト環というCの字に似た指標を用い、閉じていないすき間を認識できるかを測定しています。図1のように、ランドルト環を見るときそのすき間と眼との間にできる角度を「視角」といいます。「視角」は角度の単位の「度」の1/60に当たる「分」という単位で表されます。日本で用いられている「少数視力」は、視力を「視力=1/視角(分)」と定義しています。外径が7.272ミリ、線の太さとCの字のすき間の間隔が1.454ミリのランドルト環のすき間を5メートル離れたところから見る場合に視角がちょうど1分となるので、それを認識できる視力が「1.0」となります。1.0の指標を基準にすれば、0.5用の指標は視角が2分なので「直径もすき間も線の太さ」も2倍、0.1用の指標は視角が10分なので全て10倍の大きさとなります。0.1の指標が5メートルから見えない場合は、50センチずつ近づいて0.09から0.01まで測定し、50センチでも見えない時には指の数(指数弁)、手の動き(手動弁)、光(光覚弁)を用いて測定します。アメリカなどではアルファベット文字を用いて測定しますが、視力は「20/20」や「6/6」という「分数視力」が一般的です。分子は検査距離、分母はその指標を視力が正常な人(=1.0の人)がかろうじて読める距離です。距離の単位はアメリカではフィート、それ以外ではメートルですが、この分数を計算すると小数視力と同じことになります。
数学の少数では、1.0と0.9、0.2と0.1の間は同じ「0.1」の差です。しかし、視力は「1/視角」という計算で導かれる値なので視角と視力の値は反比例することになり、視力の1.0と0.9の差と0.2と0.1の差の「0.1」は同じではありません。図2は縦軸が視角の値、横軸が視力の値で書かれたグラフです。①で示す視力が0.1と0.2のところでは、視角が10分と5分で2倍なのでランドルト環の大きさも「2倍」になります。②で示す視力0.9と1.0のところでは視角が1.1分と1分なので、ランドルト環の大きさは「1.1倍」の差しかありません。視力1.0が0.9に下がるのと0.2が0.1に下がるのとでは大きな違いがあるということです。学校での視力健診の結果はA、B、C、D(それぞれ1.0以上、0.7以上、0.3以上、0.3未満)で通知されます。Aの1.0の指標を基準にすれば、Bは1.1〜1.4倍、Cは1.6〜3.3倍、Dは5〜10倍以上の大きさの字でないと判別できないことになるので、どれくらい見えにくくなっているのかが感覚的に理解しやすいと思います。(図の引用:ニデック社HP)

さて、「log MAR視力」や「EDTRS視力表」という表記を目にされたことがあるでしょうか。少数視力では視力の値の間隔が等しくないという欠点があるので、学術誌などでは疾患の治療効果をわかりやすくするため、視角の常用対数を単位としたlog MAR視力という視力が用いられています。常用対数自体が高校の数学でしか目にすることがないのでなじみが薄いですが、換算式はlog MAR=log(1/少数視力)=-log(少数視力)で表されます。
■EDTRS視力表の一例
少数視力の1.0はlog MARでは0となり、それより悪いと「+」表示、良いと「-」表示で0.1ずつ増減します。EDTRS視力表はlog MAR視力の0.1の単位でアルファベット文字などを5つずつ並べた表で、一番大きい文字が少数視力の0.1(log MAR視力の+1.0)、小さい文字が少数視力の2.0(log MAR視力の-0.3)に相当し、文字をいくつ読めるかで評価されます。黄斑変性症などの治療中、大きい病院でこの視力表を用いて検査をされた経験がある人もいらっしゃるかもしれません。log MAR視力が少数視力に置き換わって日常で使用されることはないと思いますが、測定の基本はすき間が認識できるかどうかに変わりはありません。これからも生活に大事な視力を保持できるお手伝いに努めたいと思います。