眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

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眼の病気 No.e162

投稿日 2021年11月2日

眼の栄養、ルイテインなどについて

院長 廣辻徳彦

今回は眼の栄養やサプリメントについて考えます。診察中に「眼にいい食べ物はなんですか」というご質問をいただくこともよくあります。10年前にも「眼と食事、サプリメントについて」について書いていますので、インナーネットで過去記事をご覧いただくのもご参考になるかと思います(広辻眼科HP→目の病気2011年)。
人間は生きていくために糖質(炭水化物)、脂質、タンパク質(3大栄養素)とビタミン、ミネラル(微量栄養素)を必要とし、3大栄養素が作用するために微量栄養素が使われます。本来は食事で全て摂取できれば良いのですが、不足しやすい必須ビタミン、必須ミネラル、必須脂肪酸などの栄養素を補充する目的で用いられるのが「サプリメント」というものです。サプリメントは医薬品ではありませんが、発病を防ぐ、病気の進行を遅らせる、などという表現の効能になります。今回は特に黄斑部という網膜の中心部に作用して、黄斑変性症という病気の発症の確率を下げてくれる可能性のある成分について考えてみます。
黄斑変性症は網膜の中心部の黄斑部に異常が生じ、視力が低下してしまう病気です。その中でも、黄斑部に何らかの原因で新生血管が生じ、出血や浮腫(むくみ)を繰り返して視力を低下させる滲出型加齢黄斑変性症という病気が日本でも最近増加しつつあります。加齢による組織の変化も大きな原因なのですが、光の中でも短い波長の青色光(=ブルーライト)が黄斑部に負担をかけて組織を傷めることも原因の一つと考えられています。もともと黄斑という言葉は、この部分にカロテノイドという物質由来であるキサントフィルという黄色い色素が豊富に含まれているところから由来しています。カロテノイドという物質は黄色や橙、赤色をした天然の色素で、その中で炭素と水素だけで構成されている物質がカロテン、それ以外の元素が含まれているものがキサントフィルと呼ばれています。キサントフィルも一つの化合物を指す言葉ではなく、ルテイン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、ネオキサンチンなどのいくつかの物質の総称です。黄斑部にはキサントフィルであるルテインとゼアキサンチンが存在し、黄色が青色の補色なので青い光を吸収し、ブルーライトから黄斑部を守るために働いていると考えられています。また、ルテインとゼアキサンチンには抗酸化作用もあるので、黄斑部を酸化ストレスから守ってくれます。

ルテインとゼアキサンチンは構造が非常に似ており、異性体と呼ばれる関係です。
よく見ると、一番右のところの構造が違っています。
ルテインに関する有名な研究に、アメリカのNIH(National Institute of Health)が行った通称 AREDS(Age Related Eye DiseaseStudy)とAREDS 2と呼ばれる大規模臨床試験があります。AREDSでは、βカロテン、ビタミン C、ビタミン E、亜鉛、銅の含まれた処方を受けた人に、加齢黄斑変性症の進行リスクの減少の可能性があることが示唆されました。ただ、その後βカロテンが肺がんの進行リスこと関係していることが示されたため、AREDS2ではβカロテンをルテインとゼアキサンチンに置き換え、魚油由来のω-3 系脂肪酸(EPA と DHA)を加えて研究が行われました。結果、ルテインとゼアキサンチン、ビタミン C、ビタミン E、亜鉛、銅の含まれたサプリメントの摂取が推奨されることとなったというものです。この研究以後、ルテインとゼアキサンチンは黄斑変性症に対しての有効なサプリメントとして位置づけられるようになりました。ただ、同時にこの研究ではルテインなどが白内障に対しての効果があるとは立証できなかったという結果も示されています。
サプリメントは購入すれば1ヶ月あたり数千円の費用です。高いと考えるかお値打ちと考えるかはそれぞれでしょうが、意味のある出費と考えて工面すればどうにかなる金額とも言えます。サプリメントほどまとまった量を毎日摂れないかもしれませんが、ルテインは緑黄色野菜、豆類、卵黄、ゼアキサンチンもトウモロコシやパプリカ、卵黄に含まれています。普段の食生活を野菜の多く含んだバランスの良い食事に変えることが、健康の維持に役立つことは間違いありません。これは黄斑変性症だけではなく糖尿病や高血圧、骨粗しょう症などにも通用する考え方です。寒くなると身体も動かさなくなりがちですが、基本的な運動や食事は大事にしたいものです。