眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

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眼の病気 No.e152

投稿日 2021年1月6日

コロナウイルスワクチン

院長 廣辻徳彦

毎年、年初めには干支にまつわる目の病気について書いてきました。丑年の今年は、先天緑内障の別名でもある「牛眼」について書くのが適当なのでしょうが、昨年の7月に記事にしていました。他に目の病気が思いつかなかったところ、「ワクチン」(英語:vaccine、ドイツ語:Vakzin)という言葉が、世界初となる天然痘ワクチンをジェンナーが開発した際、それが雌牛(ラテン語:Vacca)から取られたことに由来していることを思い出しました。そこで今回は、目の病気から離れますが、開発中のコロナウイルスワクチンについてまとめました。ちなみに、日本でワクチンと言うのはドイツ語由来の発音で、英語ではヴァクシーンという発音になります。
毎日世界中で感染の拡大が報道され、日本でも第3波が広がっています。会食が感染機会になるとわかっているのに、どうしても忘年会や飲み会をやめられないおバカさんが多いのには呆れてしまいます。今のところ感染対策は、感染者との接触を避けること、マスクや手洗いで防御すること、まめな消毒をすることなどしかありませんので、ワクチンが使用できれば対策がもう一歩前進することになると言えます。ワクチンにはBCGや麻疹、風疹などのように一度接種すれば長期間免疫を獲得できる生ワクチンなどもありますが、今回開発されている新型コロナウイルス用のワクチンには生ワクチンはありません。元日の毎日新聞の記事にわかりやすくまとめた表があったので、それを引用させていただきます。

開発企業、組織(国) 種類 使用状況
ファイザー/ビオンテック(米独) mRNA 欧米などで緊急使用許可、暫定承認
モデルナ(米) mRNA 米国で緊急使用許可、カナダで承認
アストラゼネカ(英) ウイルスベクター 英国で緊急使用許可
シノファーム(中) 不活性化ウイルス 中国で条件付承認
シノバック(中) 不活性化ウイルス 中国で緊急使用許可
ガマレヤ研究所(露) ウイルスベクター ロシア、ベラルーシなどで緊急使用許可
塩野義製薬(日) 組換えタンパク 臨床治験中(第1/2相:12/8発表)
アンジェス(日) DNA 臨床治験中(第2/3相:12/16発表)

他にも多くの国の企業がワクチン開発を行っています。最近の遺伝子解析技術の進歩のおかげで、従来ウイルスの力を弱めて接種する生ワクチン、化学処理で死んだウイルス、細菌や抗原部分のみを培養して接種する不活性化ワクチンだけでなく、DNAワクチン、mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンなどの開発が行われるようになっています。アンジェスが開発中のDNAワクチンは、体内の細胞の受容体というところにくっついて侵入するコロナウイルスのスパイクだけを体内に発現させるDNAを持っています。ウイルスの中身がないのでコロナウイルスの病原性はなく、ワクチンを注射しても病気は発症しません。注射後体内で作られたスパイクに対して抗体ができる結果、本物のウイルスに対しても抵抗力を持てるようになるという理屈です。mRNAというのは、遺伝情報の塊であるDNAからタンパク質を作る際に必要な情報をコピーした設計図のようなものです。mRNAワクチンはコロナウイルスのスパイクの情報を持つmRNAを注射することで、身体の細胞内のリボソームというところでウイルスのスパイクを製造させます。体内にできたスパイクに対して抗体が作られて、コロナウイルスへの免疫が獲得できるという仕組みです。mRNAにもコロナウイルスの病原性はなく、注射されたmRNAは体内で分解されてしまいます。
製造から承認、使用までの期間が短いので、これらのワクチンの安全性、有効性、免疫の持続時間など未知のことがまだまだ多いのも事実です。このワクチンによる死亡例の報告はまだありませんが、アナフィラキシーや迷走神経反射のような副反応も報告されているので注意が必要です。ただ、日本では死亡率が約1.5%という病気なので、ワクチンで死亡する危険性が例えば10万人に1人、2人の率であるとしても、接種の機会が来た時にそれをためらう理由にはならないと考えます。現在日本では2億9千万回分の契約(2回接種なのでその半分の人数分)を欧米3社と契約しているそうです。国内製造も待たれるところですが、輸入のワクチンが2月下旬ごろから開始される予定ということですので、これまでの生活の注意を続けながら、ワクチンの力を借りてなんとかこのウイルス禍を乗り切りたいものだと思います。