眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

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眼の病気 No.e150

投稿日 2020年11月5日

物が二つにみえる時(複視について) その1

院長 廣辻徳彦

比較的多くの患者さんが、「物が二つに見える」という訴えで来院されます。ピントがボケて見えていることをそう表現されている場合もありますが、「複視」という症状は文字通り物が二つに見えているということを指します。複視を自覚する場合、まず片目で見て感じるものか両目で見て感じるものかを確認します。どちらかの目で見た場合にのみ二重に見える場合は、片眼性複視といって多くは乱視などの屈折異常によるものです。片目ずつでは普通に見えるのに、両目で見ると二重に見えてしまう場合を両眼性複視と言います。昨年のマンスリーNo.131で「眼を動かす筋肉について」という記事を書きましたが、今回はそれに関連して両眼性複視についてその原因や治療について考えてみたいと思います。
私たちは左右に目を持っているので、立体的に物を見ること(=両眼視機能と言います)ができます。両眼それぞれに3種類の神経が働いて、6種類ある筋肉(=外眼筋)をバランスよく動かしています。このバランスが崩れると左右の目の位置が保てなくなり、斜視という状態になって複視を自覚することになります。斜視の種類で複視の原因となる状態を考えてみます。参考までに、以前に示した眼球の筋肉について再掲しておきます。

右眼の外眼筋の図です。左の図は前から、右の図は上から見たところです。①上直筋、②下直筋、③内直筋、④外直筋、⑤上斜筋、⑥下斜筋、を示しています。⑦滑車というのは頭蓋骨の眼のくぼみ(眼窩)の内上側にある上斜筋が通るための孔のことです。動眼神経(①、②、③、⑥)、滑車神経(⑤)、外転神経(④)という3種類の神経がそれぞれの筋肉に働いて、右眼と左眼とを共同して動かします。
①外斜視(どちらかの眼が外側に向いている状態)
動眼神経という神経は上記のように①、②、③、⑥の4種類の筋肉に働き、他にまぶたを上げる筋肉や瞳を閉じる働きも持っています。動眼神経麻痺が起こると内側と上下への運動ができにくくなってしまい眼が外側に向く、まぶたが閉じる、瞳が開く、という3つの症状が起こります(1つか2つだけの症状のみ出ることもあります)。糖尿病や高血圧が基礎疾患であることも多く、脳血管障害や脳腫瘍などの可能性を考えてCTやMRIなどの検査も必要になります。中でも、瞳が開いている時は脳動脈瘤が原因のこともあるので注意が必要です。
脳幹部から中脳という脳の部分にある内側縦側というところに障害があると、内側縦側症候群(MLF症候群)という状態になります。例えば右眼が外側を向く時は左眼も内側を向くのが普通ですが、内側縦側に障害が出ると左目が内側に向けなくなって複視を自覚します。この病気では寄り目はできることが特徴です(動眼神経麻痺ではできません)。若年者では多発性硬化症、中高年では血管障害が原因となることが多いようです。
②内斜視(どちらかの眼が内側に向いている状態)
一番多いのは外転神経麻痺で、片方の目が外側に向きにくくなり(=内側に向いてしまう)複視を自覚します。たとえば右眼に外転神経麻痺が起こると、右眼の外向きが出来にくくなり内側によってしまいます。この場合、左を向いた時には左眼は外側に動かすことができ、右眼も内側に動かせるので複視を感じません。しかし、右を向く時には左眼は内側を動かせるのに、右眼は外側に動かせないので複視を強く自覚することになります。その結果、正面を見る時に顔を右に向けて左向きに目を動かしているような頭位で物を見るようになります。外転神経麻痺は片眼性の場合がほとんどで、原因は糖尿病や何らかの脳血管障害、頭部外傷などです。中には脳腫瘍などで脳圧亢進が起こっている場合に、両眼性の外転神経麻痺が起こることもあります。
脳幹というところに障害が起こると、開散障害(開散不全)という状態になることがります。開散というのは寄り目(輻輳)の逆の現象で「離し目」とも言います。近くの物を見る時に両眼は少し内側に寄り(輻輳)、再び遠くを見る時に元に戻る(開散)するのですがその調節がうまくいかなくなって、少し離れたところを見る時に複視を自覚してしまう状態です。(意外に紙面を使ってしまったので、次号に続きます。)