眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療社団法人 広辻眼科

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眼の病気 No.e121

投稿日 2018年6月1日

暗順応について

院長 廣辻徳彦

ゴールデンウィークの後は7月の海の日まで連休がありません。6月にも何か祝日が欲しいところです。私はこの連休に瀬戸内海の直島というところに出かけました。建築家の安藤忠雄さんが設計したベネッセ(進研ゼミや子供向けの「しまじろう」とかの会社)ホテルやミュージアム、地中美術館や様々な現代美術作品が島中に設置され、草間彌生さんの黄色と赤色のかぼちゃのオブジェ、民家を改造してアートにしていたり作品を展示したりする家プロジェクトなど、1日アートを楽しめる島です。かぼちゃのオブジェは最近のJRのCMで仲間由紀恵さんと映っていましたね。隣の豊島(としま)、犬島にも多くの作品があるので、フェリーで巡るのも人気だそうです。もともと芸術には疎いのですが、その中に暗い部屋の中で目を慣らして鑑賞するという作品(南寺)がありました。詳細は「ネタばらし」になるので書きませんが、今回は暗がりで目が慣れることを書いてみます。
 暗がりでは明るいところほど物を見ることができません。ただ、暗いところに長い間いると、不思議と目が慣れてきてぼんやりでも目が見えるようになります。これを「暗順応」と言います。眼の中に入ってくる光は網膜にある「視細胞」という細胞で感知されます(下図左参照)。視細胞は10層からなる網膜の中で外側から2番目にあり、網膜の中心部分にあたる黄斑部に多く存在する「錐体(すいたい)細胞」と、中心部以外の周辺部にかけての網膜全体に分布する「桿体(かんたい)細胞」の二つに分類されます。錐体細胞は細かなものを見分ける機能と色を識別する機能を持ち、片眼に約600万個存在しています。錐体細胞はいわゆる「視力」や「色覚」と関わりがあり、この細胞の働きで字を読んだり(=解像度が高い)色を区別したりできます。ただ、錐体細胞は明暗の反応には長けておらず(=感度が低い)、暗いところではよく働きません。桿体細胞は明暗に反応して暗がりでものを見る機能と周辺部を見る機能を持ち、片眼に約1億2000万個あります。桿体細胞は明暗の反応に長けています(=感度が高い)。はっきりとした見え方ではなく色もモノトーン調に感じます(=解像度が低い)が、トンネルの中など暗がりでも「目が利く」ようになるのは桿体細胞のおかげです。
 錐体細胞も桿体細胞も、光を受けると細胞内にある「視物質」というものが働き、その刺激を脳に伝えます。錐体細胞にあるのは「フォトプシン」という視物質で、これが光エネルギーで構造の変化を起こして信号を伝えます。錐体細胞の視物質は3種類あり、それが色覚に作用しています。桿体細胞には「ロドプシン」いう視物質があります。ロドプシンはオプシンとレチナール(網膜でビタミンAから生成)という2つの部分から成り立ち、光の刺激でレチナールが構造変化することで信号を伝えます。明所では錐体細胞の働きがまさり、暗所では桿体細胞の働きが主となります。明所から暗所へ急に入ると見えにくく感じるのは、感度の低い錐体細胞が暗所では働きが悪いせいと、明所で桿体細胞中のロドプシンがほとんど消費されていて暗い環境で再び働き始めるのに時間がかかるからです。錐体細胞の視物質の再生速度は桿体細胞よりも早いため、暗所に入るとまず錐体細胞が働きます。暗所でも明所の10倍ぐらいまでは感度が上がり、なんとなくボンヤリと見えるようになってきます。遅れて桿体細胞で視物質(ロドプシン)が合成されて、解像度は悪く色も判別できませんが1万倍ぐらいまで増加した感度で夜目が効くようになります。暗順応で時間の経過と感度を測定する(下図右)と、約7分で錐体細胞から桿体細胞の働きに変化することがわかります。グラフの変化しているところを「コールラウシュの屈曲点」と言います。暗順応は約1時間でほぼ最高の感度になるので、天体観測などをするときは7分以上の暗順応をするとよいでしょう。


左図は網膜の中心部の断面図。☆のついている黒いラインが視細胞のある層
右図は暗順応の変化。縦軸は下ほど感度が良いことを表し、横軸は時間の経過を表す。最初のカーブは錐体、以後のカーブは桿体の反応を表す。
暗順応の反応ではレチナールが消耗するのでビタミンAが必要になります。ビタミンAを摂取しないとレチナールが足りなくなって夜に目が見えづらくなる「夜盲症」が生じます。この夜盲症については、2017年1月のマンスリーで書いていますので、ご参照ください。