眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

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眼の病気 No.e118

投稿日 2018年3月5日

視力についてあれこれ(その2)

院長 廣辻徳彦

冬季オリンピックが終了しました。日本選手の活躍のニュースが連日報道され、やはり特別な大会であると思う2週間でした。各国の選手のパフォーマンスにも驚かされましたね。4年に一度という間隔がその選手にとってのピークに当たったかどうか、長年に渡ってトップを守り続けられるか、選手同士の友情、などさまざまなドラマもオリンピックの醍醐味です。3月にはパラリンピックが開催されるので、また応援したいものです。
 前回は視力(=静止視力)についてその定義などを書きました。1.0の視力とは5メートル離れたところから約1.5(正確には1.454)ミリメートルの隙間を見分けることができる力です。ただし、視力の数字で表される「0.1」の差は均等ではありません。例えば1.0と0.8、0.6と0.4、0.3と0.1の差はすべて「0.2」ですが、見分けることのできる感覚の実寸はそれぞれ1.25倍、1.5倍、3倍という差があります(この理屈は前号をお読みください)。数字の上では同じ0.2の差であっても、1.0が0.8になるのと0.6が0.4になるのとではその意味が違うということです。子供さんが学校で視力検査をした結果の判定はA、B、C、Dで通知されます。1.0以上がA、0.9から0.7がB、0.6から0.3がC、0.2以下がDという判定です。見え方の感覚には個人差があるので一概には言えませんが、前述のように視力の数字の差は均等ではないので、A、Bではそれほどの差はないと言えますが、CやDではかなりの差があると言えます。また、同じC判定でも0.6と0.3の指標の大きさには「2倍」の差があるので、CからD判定の視力になればメガネやコンタクトなどの矯正手段が必要になってきます。
 さて、今回はいわゆる「(静止)視力」ではなく、動いている物体について、視線を外さずに見続けて識別する能力=動体視力(kinetic visual acuity:KVA)について書いてみます。スポーツと密接な関係があると言われている動体視力は、さらに横方向動体視力(dynamic visual acuity:DVA)と、前後方向動体視力(Vertical kinetic visual acuity:VKVA)とに分類されます。(インターネットや文献などでは、略号として前後方向動体視力をKVAと略していることが多いようです。単なる動体視力と紛らわしいですが、以下「KVA」と記載します。)
 静止視力はランドルト環を用いて視力測定を行います。小数か分数か、記載法に差はあっても国際的な基準です。しかし、動体視力には厳密な測定基準はありません。DVAであれば横に動く指標を見分けることができるかどうか、KVAであれば近づいてくる指標を見分けられるかどうかを測定することになります。DVAの測定では横方向の動きを測定しますが、指標を水平に直線状に動かしてしまうと目の前に来た時に距離が近くなってしまいます。指標が顔を中心に円弧状に動くようにしないと、距離が一定に保てないのです(下図参照)。実際の測定では、指標(ランドルト環)を右から左(左から右)へと水平軸に回転させて、わかったところでボタンを押すと指標が消えます。答えが正解であればその時の回転数(rpm:毎分何回転するかの単位)で動体視力が評価されます。KVAは近づいてくる指標を見分ける力なので、一定速度で近づくランドルト環をどのぐらいの距離で答えるかで測定されます。50メートルの距離から近づいてくるような大掛かりな装置を作ることはできないので、仮想空間内において一定速度で大きくなる指標(大きくなる=近づいてくる)をどの距離で答えられるかを測定します。

測定時にどの大きさの指標を用いるか、DVAであればどの回転数で、KVAであればどのスピードで指標を動かすかを表す統一された基準がないので、(静止)視力の「1.0」という単位のように誰が聞いても分かる評価はできません。一般人が概ね正常と考えられる反応を基準にして、点数化して評価するような方法も取られていることがあります。スポーツ選手などで必要性が問われることが多い動体視力ですが、DVAやKVAだけでなく、深視力(大型の免許で検査される遠近感の感覚)、コントラスト感度(白黒の微妙な違いを感じる力)、眼球運動、瞬間視力、眼と手の協応運動、周辺視野なども関連すると言われています。静止視力と異なり、訓練での向上も認められます。一般人が150キロで迫ってくる硬球を打てませんが、訓練されたプレーヤーなら「見て、反応して、打つ」ことができます。F1レーサーやアルペンスキー選手などでも動体視力は重要と言えます(もちろんそれを行う体力も必要です)。残念ながら、私のようにオリンピックをテレビで見ているだけでは何の訓練にもなりません。