眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

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眼の病気 No.e206

投稿日 2025年7月1日

後天性共同性内斜視(急性内斜視)

院長 廣辻徳彦

令和7年6月2日、日本弱視斜視学会、日本小児眼科学会、日本視能訓練士協会が共同で「若年者の後天共同性内斜視に対する提言」を発表しました。大々的ではありませんでしたが、ニュースにもなったので耳にした方もいらっしゃったかと思います。数年前にも一度取り上げた話題ですが、スマートフォンをはじめとするデジタル機器との関連性が問題となっていて、最近の近視進行の若年化の話題とも関わるところですので、再度取り上げたいと思います。提言は以下の通りです(文献などは省いています)。


スマートフォンや携帯ゲームなどのデジタル機器の普及によって、若年者の近見作業の 時間が長くなっており、後天共同性内斜視との関連が考えられています。そこで日本弱視斜視学会、日本小児眼科学会は後天共同性内斜視とデジタル機器の関連について全国調査を行いました。その結果をふまえて以下の提言を行います。

  1. デジタル機器の視聴を含む近見作業をするときには 30cm以上の距離を保ち、少なくとも30分に1回は、30秒以上画面から目を離し、遠くを見て目を休めましょう。
  2. 遠くのものがダブって見えるなど見え方の異常を感じたら、デジタル機器の視聴を含む近見作業をやめて、早めに眼科を受診しましょう。
  3. 5歳未満のお子さんは、斜視になっても見え方がおかしいと訴えることがありません。2歳まではデジタル機器の使用を控えること、2〜5歳のお子さんはご家族の注意のもと、短時間の視聴にとどめましょう。

(根拠となる研究結果)
後天共同性内斜視を発症した5歳から 35歳の患者さんに、デジタル機器の適切な使用時間や使用方法を説明したのち、3か月後の斜視の状態を調査しました。その結果から以下のことがわかりました。

  1. 登録されたのは194 名で、16歳をピークに中高生で発症頻度が高く、斜視や弱視の既往のある人や不同視の人に発症しやすいという傾向がありました。
  2. デジタル機器を長時間視聴していた156人は、視聴時間を減らし、視聴距離を30cm以上に保ち休憩を入れるように指導をした3か月後には、視聴時間と斜視角が統計的に有意に減少し、10人(6%)の人が治癒しました。一方、もともと長時間視聴をしていなかった 25人は視聴時間も斜視角も変化しませんでした。そのうちの1人 (4%)は治癒しました。
  3. デジタル機器を長時間使用していた人のうち、初診時に立体視があり、斜視の角度が小さいことと、デジタル機器の視聴時間をそれまでの半分以下に減らすことが改善と関連することがわかりました。

以上、わかりにくい表現もありますが、要約すれば若年者、特に子供ではデジタル機器の使用時間が多くなると後天性共同性内斜視、いわゆる後天性の急性内斜視になってしまうことがあり、その習慣を改善すれば治る人もいる一方、それだけで治らない人の方も多いので、異常を感じたら医師に相談することと、デジタル機器使用時間を短くして、使用するにしてもできるだけ距離をとるべきだという内容です。
もともと、人は遠くを見ているときには両眼の視線がほぼ平行に近い状態になっています(下図左)が、近くを見るときには内側に寄せてピントを合わせます(下図右)。内側に寄せる反応を輻輳(ふくそう)、ピント合わせの反応を調節といいますが、この二つの力は関連していて、より近くのものを見るほど輻輳も調節も強く働き、内側に寄せるために働く筋肉(内直筋)という筋肉の力がより働くことになります。勉強や読書の時間は50年前と変わっていないはずですが、デジタル機器を使用する機会が多くなり、機器を使う(=依存している)時間も増えてきています。その結果、内直筋に負荷がかかりすぎることによって、眼球を動かす筋肉のバランスが崩れて内向きから元のまっすぐに戻らない内斜視が生じる可能性が考えられています。症状が出てからデジタル機器の使用習慣を改善しても元通りにならないことがあることを考えれば、このようになってしまう前にデジタル機器との付き合い方を考えておくべき、すなわち親御さんが適切に子供に指導していく必要がある問題かと考えます。いろいろとしなければならないことが多い中で、「スマホ保育」が一概に悪いとはいえませんが、気にかけておきたい問題です。またベッドの上で寝転んでデジタル機器を見続けるのも要注意です。

症状が改善しない場合は、眼球を動かす筋肉の位置を調整して眼球の位置を正常に戻す手術や、プリズムレンズという光を屈折させて像の位置を矯正する眼鏡を用いて複視を矯正する方法があります。それでも、手術後にデジタル機器を長時間見る習慣に戻ってしまうと再発するケースもあるそうです。デジタル機器なしでの生活が成り立たない現在、近視の問題も含めてその利用法を見直すことが重要になってきているかと思われます。