眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

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眼の病気 No.e193

投稿日 2024年6月5日

黄斑部とその病気(その2)

院長 廣辻徳彦

前回の黄斑上膜と黄斑円孔の続きです。黄斑部の説明は前回のマンスリーを参考にしてください。
3 加齢黄斑変性症:この病気は大きく分けて萎縮型(図1)と滲出型(図2)に分けられます。初期にはものが歪む、中心が暗く見えるなどの症状で気づかれますが、滲出型の場合は突然の出血で急に症状が出現することもあります。萎縮型は網膜最外層にある網膜色素上皮が加齢によって障害され、次第に網膜までもが萎縮していくタイプです。進行はゆっくりで、初期の症状は「歪み」というよりなんとなく見えにくくなったという視力低下感です。急に見えなくなることはありませんが、有効な治療法がなく、少しずつ視力が低下してしまうことが止められない厄介な病気でもあります。滲出型は、網膜色素上皮の何らかの異常に伴い、網膜の外側にある脈絡膜から異常な血管(新生血管)が生えてくる病気です。新生血管は通常の血管よりも血管壁の構造が弱い作りになっています。網膜色素上皮下あるいは網膜下や網膜内に侵入した新生血管から漏れでた血液の成分で、網膜が腫れたり(網膜浮腫)、網膜下に液がたまったり(網膜剥離)して視力が低下します。新生血管から出血(網膜出血、網膜下出血)した場合も視力に影響を与えます。新生血管の発生と網膜浮腫の増悪には、血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)という物質が関係していることがわかっています。そこで、VEGFの働きを阻害する抗VEGF薬を数週間毎に眼内に注射する治療が行われます。他に、光線力学療法(PDT)といって新生血管に取り込まれる光感受性物質を点滴し、その後に専用のレーザー光線を照射して新生血管だけを退縮させる治療もあります。どちらの治療でも進んでしまった病気を元通りにすることは難しいので、症状が出れば早めに受診し、もしこの病気であることがわかれば治療を開始するのが望ましいところです。
4 中心性漿液性脈絡網膜症:働き盛りの年代(20-50歳ぐらい)に生じる病気です(図3)。それ以外でも起こりますが、男女では男性に多い傾向です。黄斑部に狭い範囲で網膜剥離が生じて「ものが歪んで見える」、「左右の眼で大きさが違って見える」、「中心部が暗くて見えにくい」などの症状を自覚します。詳細な原因はわかっていませんが、網膜の一番外側にある網膜色素上皮に異常が生じてバリア機能が低下することによって、網膜の外側の脈絡膜から水分がしみ出してきて網膜剥離が起こると考えられています。循環改善剤やビタミン剤などの内服を行いますが、2、3ヶ月程度の経過観察だけで治ってしまう場合もあります。症状が強い場合やなかなか治らない場合に、水分がしみ出してきている部分にレーザーを行う治療もあります。上記の加齢黄斑変性に用いられている光線力学的療法(PDT)を、保険適応外で応用するという報告も見られます。自覚症状もなく治る場合もあれば、暗い感じや歪みなどが残ることもあり、繰り返す場合には最終的に視力低下を起こすこともあります。
5 網膜黄斑ジストロフィー:遺伝子の異常による代謝障害のために、成長に伴い組織が萎縮・変性をきたす病気のことをジストロフィーと言います。網膜黄斑ジストロフィーは黄斑部を含む網膜に異常が起こる病気で、通常両眼性で多くは遺伝します。いくつかの病気の総称で、遺伝形式や病状、進行の度合いが異なり、生まれてからほぼ変わらないものから、進行して失明に至るものまでさまざまです。ここでは紹介のみにとどめますが、錐体という部分が主に障害されるスターガルト病、卵黄様黄斑ジストロフィー(ベスト病)、錐体ジストロフィー(錐体杆体ジストロフィー)、杆体1 色覚などと、杆体という部分が主に障害される網膜色素変性症、先天停止性夜盲、小口病、コロイデレミア、脳回状網脈絡膜委縮などが知られています。
この2回はこれまでに紹介してきた病気のレビューのようでしたが、大事な病気ですので参考にしてください。