内斜視、特に急性内斜視について
院長 廣辻徳彦
最近インターネットニュースで、「急性内斜視」という言葉が使われているのを目にしました。あまり聞きなれない言葉ですが、急性内斜視とは年長児以降成人にいたる間の年齢で、突然発症する内斜視のことを言います。スーマートフォンとの関連性も示唆されているので、今回はこれも含めて内斜視について書いてみます。
内斜視とは、どちらかの眼の視線が内側に向いている状態のことを言いますが、発症の時期、原因、調節性の有無、斜視角の程度、変動などで分類されます(分類や説明については日本弱視斜視学会の記載を参照、引用しました)。発症時期では生後6ヶ月以内で発症する乳児内斜視(先天内斜視)とそれ以後に発症する後天内斜視に分けられます。乳児内斜視では片眼が内側にずれることが多いのですが、必ずしも同じ眼がずれるわけではなく、交互に変わったり、両眼ともに内側に寄ったりしているように見えることもあります。眼位ずれの大きさにもよりますが、両眼視機能という立体的に物を見る力を獲得するためには早めの手術が望ましいと言われています。後天内斜視とは、生後6か月以降に発症した内斜視のことを言い、基礎型内斜視、調節性内斜視、周期内斜視、急性内斜視などの種類があります。基礎型内斜視は、斜視の角度が次第に大きくなる傾向を示します。眼鏡をかけても角度が変わらず、遠くを見ている時も近くを見ている時も眼位ずれの角度に変化はありません。周期性内斜視では眼位のいい日と悪い日が1日ごとや2日ごとに現れます。どちらの斜視もずれの程度が大きい場合は手術治療が必要です。
調節性内斜視は遠視という屈折異常が関係して生じる内斜視です。遠視という状態は遠くが見えると誤解される向きがありますが、本来近くを見るときだけに働く「調節力」という力を、遠くを見ている時にも働かせている状態の眼です。軽い遠視であれば、調節力に十分な余裕のある若いうちには遠方視力は良好ですが、調節力が衰える40代以降は遠くを見るのにも眼鏡が必要になります。遠視の程度が強い時に調節力が働きすぎて目が内側に寄ってしまう状態が生じることを調節性内斜視といいます。調節性内斜視にも以下の種類があります。
・屈折性調節性内斜視:遠視を矯正する眼鏡を使用すると、遠くを見る時も近くを見る時も内斜視が治るタイプ。
・非屈折性調節性内斜視:近くを見る時のみ内斜視が強くなるタイプ。老眼の人が使うような遠近両用眼鏡を使用。
・部分調節性内斜視:遠視矯正の眼鏡をかけて3ヶ月以上たってもある程の以上の内斜視が残るタイプ。
これらの内斜視では、眼鏡を装用している間は内斜視が目立たなくなりますが、遠視がある間は成長しても眼鏡やコンタクトレンズが必要となります。部分調節性内斜視では残った眼位ずれに対して、手術を行う場合やプリズムレンズというもので眼位を矯正する場合もあります。いずれにしても、内斜視の場合は眼位ずれの程度と遠視などの屈折異常の検査を行い、眼鏡装用後にも眼位ずれと遠視の程度の変化などの検査を定期的に繰り返す必要があります。指示された定期的な受診スケジュールを守るようにしてください。
最後に「急性内斜視」についてです。急性内斜視は、年長児以上に突然起きる内斜視で、調節性の内斜視や麻痺性の内斜視の関与が否定されているものです。調節性内斜視はすでに書きましたが、麻痺性内斜視とは眼を動かす神経の麻痺で生じる内斜視です。多くは眼を外に動かす外転神経が麻痺して、眼を外側へ動かす筋肉が働かなくなって眼が内側に寄ってしまいます。脳腫瘍などで起こることもありますが、神経麻痺という原因がはっきりしている場合は急性内斜視には含みません。症状としては複視(物が二重に見えること:片目ずつ見れば一つに見えます)を訴えます。はっきりした原因はわかっていませんが、近年増加傾向にあると言われています。2016年に韓国の施設から、1日4時間以上(平均6時間)のスマートフォンの使用を、30センチ以内の距離で4ヶ月以上続けていた7歳から16歳までの12例の急性内斜視の症例が報告されました。スマートフォンの使用を1ヶ月間控えると全員斜視の角度が減少したので、急性内斜視にはスマートフォンの影響の可能性が示されたというものです(それでも、5例では手術を必要としたそうです)。近くで物を見るときには両眼を内側に寄せる力が働くのですが、見る距離が30センチであるより近い20センチである場合は、視覚への負担が極端に大きくなるという報告もあります。スマートフォンを座って使う場合とベッドなどで寝て使う場合を比較して、座っている場合は約30センチ、寝ている場合は約20センチで使用していたという報告もあるので、使用距離には気をつけることが重要です。スマートフォンはその依存性の高さもあり他にも様々な問題があると言われています。急性内斜視は最終的な治療として手術が必要になることも多いので、できればスマートフォンの使い過ぎには注意してください。