眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

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眼の病気 No.e216

投稿日 2026年5月1日

重症筋無力症

院長 廣辻徳彦

先月は、「眼瞼下垂」という病気に対する新点眼薬の紹介をしました。この薬は加齢による眼瞼下垂に有効ですが、眼瞼下垂の原因はそれ以外にもいくつかあります。今月は眼瞼下垂も症状の一つである「重症筋無力症」という病気の紹介をします。この病気は「神経から筋肉へ命令を伝える仕組み」に異常が生じ、筋肉がうまく働かなくなる病気です。
私たちが身体をうまく動かしているのは、脳から神経を通じて筋肉を働かせる命令が出ているからです。筋肉を動かすために、神経の末端から「アセチルコリン」という物質が放出されています。そのアセチルコリンが神経・筋接合部(神経と筋肉が繋がるところ)で筋肉側の受容体に結合し、筋肉を収縮させる(=働かせる)というのが正常の過程です。ところがこの病気では、神経・筋接合部にあるアセチルコリン受容体 (AChR)、あるいは筋特異的チロシンキナーゼ (MuSK)というタンパク質の一種に対する「自己抗体」ができ、これらが自分自身の受容体などを異物とみなして攻撃してしまいます。いわゆる「自己免疫疾患」という病気の一種で、受容体などが自己抗体によって攻撃されて減少し、神経から筋肉へのアセチルコリンによる信号が伝わりにくくなり、筋肉の働きが悪くなってしまうのです。重症筋無力症の特徴となんる症状の一つは、「使うほどに働きが弱くなる=疲れやすい」という点で、これを「易疲労性」と呼びます。もう一つの特徴は、朝は大丈夫でも夕方に悪化するという「日内変動」です。筋肉は全身にあるので、症状も全身に及ぶことが多いのですが、代表的な症状に「夕方になるとまぶたが下がってくる(眼瞼下垂)」、「日によって見え方が違う」、「物が二重に見えることがある(複視)」というものがあるため、初診で眼科に受診されることも珍しくありません。
この病気は全経過を通じて眼の症状が中心となる「眼筋型」といわれるものが20%で、残りは眼も含めた全身の筋肉に症状が出る「全身型」に分類されます。眼筋型の症状は、眼瞼下垂や複視などが主なものです。全身型では四肢筋力低下(手足の力が入りにくい)、嚥下障害(物を飲み込みにくい)、構音障害(話しにくい)、咀嚼疲労(食べ物を噛み続けるのがしんどい)、頸部の筋力低下、呼吸筋麻痺などの症状が現れます。これらの症状の中で嚥下障害は、食べ物や唾液が気道に入る誤嚥を引き起こす可能性があるので注意が必要です。最も重篤な症状は呼吸筋の障害が急速に進む「クリーゼ」という状態で、この場合は人工呼吸器が必要となる場合があります。現在は適切な治療を行えば亡くなるということは少ないようですが、油断はできません。眼の症状で発症してから全身型に進むこともありますが、多くの場合は発症から2年以内とのことです。日本における重症筋無力症の患者数は約2-3万人と推定されています。男女比では女性が多いのですが、近年は男性の患者数も増えています。発症年齢は小児から若年層(20-30代)、高齢者と幅広いのですが、50歳以上の発症が半数以上を占めています。
重症筋無力症の検査には、以下のようなものがあります。①血液検査:重症筋無力症に特異的な抗体(抗アセチルコリン受容体抗体、抗MuSK抗体)を測定します。②テンシロンンテスト:アセチルコリンを分解する酵素の働きを妨げる作用を持つ、「テンシロン」という薬を静脈注射します。重症筋無力症であれば筋力が一時的に回復し、眼瞼下垂や複視などの改善傾向を認めます。効果が短いので治療薬としては使えませんが、診断に役立つ薬です。③アイスパックテスト:冷凍したアイスパック(スーパーでもらう保冷剤)をガーゼなどで包み、3~5分の間下垂した上まぶたに押し当てて、一時的にまぶたが挙がると陽性です。筋肉を冷やすことで、神経筋接合部の伝達が改善する性質を利用したテストです。④筋電図:運動神経を電気で刺激して筋肉の反応を記録するのが筋電図です。短い間隔で連続して運動神経に電気刺激を与えても、通常は筋肉の反応に変化はありませんが、重症筋無力症では筋肉が疲れやすいので、次第に収縮力が低下することが筋電図で記録できます。⑤頬部CT、MRT:重症筋無力症の約15~20%に「胸腺腫」という所見が現れるので、それを検査します。
治療は、神経と筋肉の伝達を助ける薬(コリンエステラーゼ阻害薬)を用いるのが基本となります。それに、副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬などを組み合わせて治療します。胸腺腫を合併している場合は、胸腺腫と残存する胸腺をできる限りすべて取り除く手術(拡大胸腺摘除術)も行われます。免疫グロブリン療法や血液浄化療法、補体阻害薬というものを用いることもあります。眼科だけでなく神経内科などと連携して治療にあたります。適切に治療を行えば、症状が改善し日常生活を維持できるケースが多い病気ではありますが、呼吸に関わる筋肉に影響が及ぶ場合には速やかな対応が必要となります。最初は「最近疲れやすくなったかな」という症状で見過ごされることもありますが、眼科的症状で見つかることもある病気です。気になる症状がある場合には、ご相談ください。