深まる秋と大雨
院長 廣辻徳彦
この記事は10月の終わりの頃に書いているのですが、秋といってもなかなか気温が下がらず、11月の声を聞いてようやく秋めいてきた感があります。40年ほど前、高校が甲子園駅の駅前から甲陽園の小高いところに移転したからかもしれませんが、毎年秋分の日に開催されていた文化祭で、準備をして帰る頃には風も少しは冷たくなっていたように思います。少し日も短くなった帰宅途中では、金木犀も香っていたと記憶しています。今年、クリニックの通路に植わっている金木犀が香り出したのはようやく10月半ばを過ぎた頃、開花の時期には毎年幅があるとは思いますが、温暖化の影響もあるのかと考えてしまいます。
自然災害のことを毎回話題にしたいとは決して思いませんが、10月も関東、信越、東北地方を中心に豪雨災害が続きました。千曲川や阿武隈川といった有名な河川が氾濫したことも驚きでしたが、木造家屋の1階部分で濁流が流れているのを2階で撮影している恐ろしい映像も放送されていました。台風の大型化にも温暖化が関わっているそうです。沖縄や九州だけでなく、日本中どこでも大雨への対策が必要になっていますし、どこに居住していても、持ち出し袋や非常食の準備を考えておかなければならないでしょう。「実りの秋」と言うように秋はいろいろな作物の収穫期ですが、今回の大雨は人や住居だけでなく農作物にも大きな被害をもたらしました。生産者が丹精を込めて育て、収穫や出荷を待っていたりんごやお米などが被害を受けたというニュースを見ると、いたたまれない気持ちになります。出来るだけその地方のものを買うようにしたいと思うこの頃です。9月に始まったラグビーW杯も台風のために3試合が中止になりましたが、東北では試合のなくなったカナダ代表が、災害の復旧活動の手伝いをしてくれたというニュースもありました。我らが日本代表も、格上の2チームを撃破して初めてベスト8に入るという快挙を成し遂げました。おそらく誰もが想像していなかったぐらいの盛り上がりを見せた今大会、決勝戦は11月2日に行われます。この記事を皆さんがご覧になるころ、イングランドと南アフリカ、どちらが勝利の美酒に酔いしれているのでしょう。大変な出来事が多かった秋も深まり、11月は紅葉も色づく季節です。移りゆく山の景色を眺めながら、静かな時間が過ごせればありがたいと思います。
健康とは!(安楽死について-1)
先日、ベルギーの女子パラリンピックメダリストが安楽死の選択肢をし、実行したというニュースを目にしました。14歳で進行性の脊髄疾患に罹患した後、下半身不随となった女性です。それでも車椅子競技を始めて車椅子トライアスロンで2回の世界チャンピオンになり、病気の進行で車椅子陸上競技に転向した後もロンドン大会で金と銀、リオ大会で銀と銅のメダルを獲得したという、とても優れたアスリートだった方です。詳しい病気の名前まではわかりませんでしたが、その病気は耐え難い激痛を伴うもので、強い鎮痛剤でもなかなかコントロールし難いものだったそうです。リオ大会の後に「安楽死は殺人ではない。より長く生きるためのものだ。」と話し、室内スカイダイビングなどにも挑戦した彼女でしたが、10月22日に自ら選択して40歳の生涯を終えられたということでした。
安楽死というものを簡単に扱うことはできませんが、このニュースが特に気になったのは、NHKスペシャルで「彼女は安楽死を選んだ」という番組が放送されたことに対するコメント記事を最近目にしていたからでした(この番組は6月2日に放送されたもので、どういうわけか今でも削除されていないのでYou Tubeで視聴可能です)。登場した患者さんは、多系統萎縮症という難病を患っていました。進行すると食事も呼吸も会話も自力ではできなくなってしまう病気なのですが、意識はほぼ保たれるので患者さんにはとても辛い状態となります。彼女は自身の自由が効かなくなってしまう前に、排泄に関してはオムツの使用をしていたものの、たどたどしくも会話ができている状態で「死」を選択したのでした。もちろんこの状態での死の選択を、「安楽死」と言えるかどうかは甚だ疑問ではあります。日本では医師による自殺幇助(立ち会う人がいればその人も)になると思われます。この患者さんも安楽死に関しては一部特殊な環境にあるスイスに二人の姉と共に渡航し、規定の手続きをとって致死薬の入った点滴の栓を自ら開いたのでした。同じ病気ではないものの、難病を患った二人がどうすべきだったかを他人がとやかくいうことはできませんが、何回か安楽死について考えたいと思います。