エボラ出血熱とは?
院長 廣辻徳彦
今回は「目の病気」とは言えないお話ですが、最近ニュースで耳にすることの多い「エボラ出血熱」について書いてみます。「エボラウィルス(下図:電子顕微鏡写真)」という病原体によって発症するこの病気は、1976年にスーダン(現在は南スーダン)のヌザラという町で初めて報告され、最終的に感染者数284人、死亡者数151人となりました(同じ年にコンゴ民主共和国では感染者数318人、死亡者数280人の流行がありました)。初めて感染したとされる男性の出身地付近であるザイールのエボラ川からウィルスが命名され、病気も「エボラ出血熱」と名づけられたそうです。これまでにも20回ほどアフリカ大陸で突発的に発生・流行し、感染したときには約50〜90%が死に至るという非常に恐ろしい病気です。エボラウィルスに感染すると、2〜21日(通常は7~10日)の潜伏期の後、突然の発熱、頭痛、倦怠感、筋肉痛、咽頭痛等の症状が出てきます。次いで、嘔吐、下痢、胸部痛、出血(吐血、下血)等の症状が現れます。ウィルスが体の中の細胞を構成しているタンパク質を分解してしまうので、皮膚や口腔や消化管、結膜などの粘膜が弱くなり出血が生じます。「身体中から出血する」とすら表現されてしまうような状態から、最悪死に至ってしまいます。現在は、エボラ出血熱に対するワクチンや特異的な治療法がないため、患者の症状に応じた治療(対症療法)を行うしかできません。緊急事態なのでアメリカの未承認薬に効果があるかもしれないと治験が認められ、日本の抗インフルエンザ薬の効果があるかもと期待されているという報道もあるので、その経過を待ちたいところです。しかしながら、治療に当たる医療従事者自身が感染して命を落とすことが多いので、現地では十分な医療スタッフが確保できないこともあるようです。
咳やくしゃみでヒトからヒトに感染(飛沫感染)するインフルエンザ等の疾患とは異なり、エボラ出血熱は簡単に感染することはありません。症状が出ている患者の体液(血液、分泌物、吐物・排泄物)や、患者の体液が付着している注射針などに十分な防護なしに触れた際、ウィルスが傷口や粘膜から侵入することで感染します。黄色いガウンとゴーグル、マスクと手袋で十分な装備をして治療に当たっているのをテレビでご覧になっていると思います(下図:写真)が、これは患者の体液に直接触れないようにするためです。感染しても症状の出ていない(いわゆる潜伏感染期)患者からは感染しません。流行地では、エボラウィルスに感染した野生動物(オオコウモリ、サル等)の死体に直接触れたり、その生肉を食べたりした人がエボラウィルスに感染し、自然界から人間社会に持ち込まれていると考えられています。WHO(世界保健機関)では、流行地でエボラ出血熱に感染するリスクが高い人たちを医療従事者、患者の家族や近親者、埋葬時の儀式で遺体に直接触れる参列者、熱帯雨林で動物の死体に直接触れる狩猟者などとしています。これまでは中央アフリカ諸国(コンゴ民主共和国、スーダン、コンゴ共和国、ウガンダ、ガボン等)でしばしば流行が確認されていますが、西アフリカ諸国(ギニア、シエラレオネ、ナイジェリア、リベリア等)では今回が初めてとのことです。8月28日現在、WHOのHPでは、疑いも含めた感染者数は3,069名、死亡者数は1,552名と記載されています。
エボラ出血熱は大陸から渡り鳥が運んでくることもなく、空気感染もしません。感染が生じているアフリカ諸国に日本人が訪れる機会は少ないので、よほど重要な仕事で出かけることがない限り感染者に接することもありません。ですが、日本の外務省をはじめ多くの国で、不要不急の西アフリカへの渡航は控えるべき、と要望されています(複数の航空会社がこれらの国への運航を中止しているので、入国できても出国できない可能性もあるようです)。このウィルスはアルコールや石けんによる消毒も有効なタイプですので、今のところ日本で感染が広がることは考えにくいと思われますが、アフリカ諸国ではいまだに感染の拡大が懸念されていますので、ニュースなどのチェックはしておいてください。(今回は厚労省のHP、WHOの資料、Wikipediaなどから引用しています。)