ドライアイの新しい点眼薬
院長 廣辻徳彦
ドライアイといえば、今や普通の会話にも出てくるぐらい有名になった感があります。ドライアイ研究会によれば「ドライアイとは、様々な要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり、眼不快感や視機能異常を伴う」と定義(2006年)されている病気です。小難しい表現ですが、「何らかの原因で眼の表面が乾いて、様々な症状が引き起こされる病気」とイメージすればわかりやすいかもしれません。最近新しい治療薬が使えるようになったので、もう一度簡単にまとめてみたいと思います。図1は涙に染色をしてドライアイの眼を観察している写真です。
涙は眼の外上方にある涙腺というところで分泌され、眼の表面を潤して内側にある上下涙点から涙道という導管を通って鼻へ流れていきます(図2左)。角膜の表面にある涙は三層構造(外側から油層、水層、ムチン層)になっていて(図2右)、角膜の表面をうるおしています。この構造が保たれることが、涙の安定性にとって重要なことなのです。涙の量が少ないか、もしくは量が十分でも乾きやすいとドライアイが生じます。涙の量が少なくなる原因には、加齢のほかシェーグレン症候群などの全身の病気があります。涙の量が十分にあっても油層の質が悪い場合には乾きやすくなってしまいますし、乾燥した部屋の中、過度のVDT作業、コンタクトレンズ装用など環境的要因もマイナス要因です。特にパソコンなどのモニターをみつめる作業時には、まばたきが減る傾向にあるので涙が余計に乾いて症状悪化の原因になります。涙は角膜というレンズをコーティングしてくれている保護膜のようなものなので、これが乾くようだとレンズの表面が滑らかに保たれなくなり、まぶしく感じたり見えにくく感じたり(最近このような状況で生じる視力低下を「実用視力」の低下と表現することがあります)してしまうのです。
ドライアイの治療は、人工涙液やヒアルロン酸を含んだ点眼薬での水分の補給を行い、不十分なら涙点に栓(涙点プラグ)をはめたり手術で涙点をふさいだりして涙を保ちます。眼表面で慢性的に炎症が起こるので、抗炎症剤の点眼を併用することもあります。覆いのついたメガネをかけたり、加湿機などを使ったりして、乾きやすい環境を改善するのも有効です。ただ、天然の涙を補給している訳ではないので、症状が治まらないこともあります。
涙が眼の表面をうるおすためには、「ムチン」という物質が大事な成分で、この物質はこれまでも「膜型ムチン」としてムチン層に存在することは知られていました。しかし、「膜型」以外に「分泌型ムチン」というムチンが水層に十分にあることが、涙液層の安定のために大切な役割を果たしているとわかってきました。そこで、外から水分や保湿剤を供給するのではなく、ムチンの分泌を促すための薬が開発されました。結膜の表面に働いて水分とムチンとを産生させて涙を維持するジクアソホルナトリウム点眼液(ジクアス)と、ムチンの分泌と眼表面の粘膜を修復する効果を持つレバミピド懸濁点眼液(ムコスタ)という点眼薬です。ヒアルロン酸点眼薬の出現によってドライアイ治療はかなり進化しました。それから10数年たって、ヒアルロン酸点眼薬だけでは補いきれなかった涙の質と量を担保できるようになったということです。安定した涙が常に眼の表面を覆うことになり、眼表面のコンディションが整えられ、ドライアイの症状を改善できる期待がもたれます。これらの点眼薬医は、従来にない涙液安定の効能を持つため、これからのドライアイ治療の中心をなっていくと思われます。副作用には点眼初期に比較的しみる感じや充血感が強いこと、ムチンには少しねばつく性質があるためメヤニのような白い物質がまぶたの縁につくことなどがあります。
もちろん現在ヒアルロン酸製剤や人工涙液の治療で自覚症状が治まっている場合は、無理に新しい薬に変える必要はありません。症状にご心配がある時は、またご相談ください。