眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療社団法人 広辻眼科

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眼の病気 No.e63

投稿日 2013年8月1日

風疹と先天風疹症候群

院長 廣辻徳彦

最近はニュースで取り上げられる回数は減ってきましたが、6月ごろまではNHKのニュースでも風疹に罹患する方が多いことを取り上げていました。「どうして今ごろ風疹が流行るの?」と、いつも眼だけしか診ていない私などは不思議に思ったのですが、実際かなりの患者数増加がありました。我が国では、1990年代前半までは5~6年ごとに大規模な全国流行があり、男女幼児が定期接種の対象になってからは大きな全国流行はなくなりました。しかし、2004年に推計患者数約4万人の流行があり、10人の先天性風疹症候群が報告されました。その後、2011年にアジアで大規模な風疹流行が発生し、海外で感染して帰国した後に風疹を発症する成人男性と、職場での集団発生が散発的に報告されるようになりました。報告数は2010年に87人、2011年に378人、2012年には2,392人〔暫定数〕と増加し、2013年には5月1日現在で5,442人と2012年1年間の2倍以上に急増しました。報告患者の9割が成人(男性が女性の約3.5倍)で、男性は20~40代、女性は20代に多く発症しています。2012年10月~2013年4月までの7ヶ月間に10人の先天性風疹症候群が報告され、妊婦が感染した時期は2012年前半と推定されますが、2013年第1~17週〔5,442人〕と、2012年第1~17週〔158人〕の風疹患者報告数を比較すると、2013年は2012年の約35倍なので、今年は先天性風疹症候群の増加が懸念されています。
今回風疹の感染を取り上げたのは、感受性のある妊娠20週頃までの妊婦が感染すると、上に書いたように「先天風疹症候群(以下CRSと書きます)」と総称される障害を引き起こすことがあり、その中に眼の症状が含まれているからです。風疹の流行年とCRSの発生の多い年度は完全に一致しており、流行年には風疹感染を危惧した人工流産例も多く見られました。
風疹は主に春に流行するので、妊娠中に感染した胎児の多くは秋から冬に出生しています。つまり、今年も秋ごろから生まれてくる子供の中に、CRSに罹患している子供がいる可能性があるということです。母親が顕性感染した妊娠月別のCRSの発生頻度は、妊娠早期の風疹感染であるほど高いのですが、成人でも15%程度不顕性感染があるので、母親が無症状であってもCRSは発生する可能性があることになります。
CRSの3大症状は先天性心疾患、難聴、先天白内障です。このうち、先天性心疾患と先天白内障は妊娠初期3カ月以内の母親の感染で発生しますが、難聴は初期3カ月のみならず、次の3カ月の感染でも出現し、しかも高度難聴であることが多いといいます。3大症状以外には、眼では網膜症(ごま塩様眼底)、緑内障、小眼球、その他に肝脾腫、血小板減少、糖尿病、発育遅滞、精神発達遅滞など多岐にわたります。

先天白内障

CRSによる先天白内障の治療には、その程度にもよりますが手術が必要になります。一定量の光が眼に入らないと視力が発育しないからです。しかし、乳幼児の白内障手術には全身麻酔が必要で、眼の大きさや弾力性も大人と違うので、小児眼科を専門にしている施設で行う必要があります。手術後にはピント合わせができなくなるので、コンタクトレンズを使用したり、最近では眼内レンズを挿入したりしますが、最終的に十分な視力の発育が得られるかというと難しいところです。(左図はCRSの先天白内障)
風疹に感染しても、ほとんどは経過観察や対症療法だけで治癒します。風疹に対するワクチン接種の目的は、CRSを防ぐためと言い換えても良いぐらいです。世界的(いわゆる先進国)ではMMR(麻疹、おたふくかぜ、風疹)ワクチンが一般的ですが、日本では1989年から1993年に使用された際、おたふくかぜワクチン株による無菌性髄膜炎が多発したため、それ以後は使用されていません。個別接種である風疹ワクチンは1995年までは中学生の女子のみに、それ以後は男女ともに12ヶ月から90ヶ月の時期に接種となりましたが、接種実施計画などワクチン行政の問題や保護者の認識不足から、接種率は十分でありませんでした。2006年度からはMR(麻疹、風疹)ワクチンが定期接種に導入され、1歳と小学校入学前1年間の幼児(6歳になる年度)の2回接種となっています。ワクチン接種の狭間となった30-40代の男性で抗体の保有率が低く、最近の流行の中心となってパートナーの女性への感染機会も多くなっていると推測されます。先に書いたように、妊娠初期の感染は一定の確率でCRSを引き起こす原因となります。妊娠機会のある女性の方は是非とも抗体価を測定し、必要ならワクチン接種をしておくことを強くお勧めします。
(今回は、国立感染研究所(NIID)と感染症週報IDWR2000年第7週号の記載を参考にし、引用しています。)