眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

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眼の病気 No.e59

投稿日 2013年4月1日

網膜静脈閉塞症について(その治療)

院長 廣辻徳彦

病気の治療として、例えば白内障であれば「濁った水晶体を新しい人工レンズに換える」という確立した方法があります。麦粒種(めばちこ、ものもらい)であれば、「切開して膿を出す」とか「抗生物質を使う」という方法でまず治ります。しかし、今回の「網膜静脈閉塞症」という病気については、「これをすれば治る」という確実な治療法がありません。何も治療をしないままで(自然に経過観察しておくだけで)治ってしまうこともある病気なので、どれぐらいの治療が必要なのかがわかりにくい側面もあります。眼底出血の中で代表的で比較的多いのに、標準的治療がないのは困ったことですが、そういう状況を踏まえて現在の治療について書いてみます。
治療には内科的治療と外科的治療とがありますが、眼科の治療を行う前にすべきことは血圧のコントロールです。「網膜静脈閉塞症」は高血圧と関連があることがわかっているので、高血圧の傾向がある方は、なによりもまず血圧を安定して下げることが大切です。血圧をコントロールしてから、もしくはそれをしながら眼科の治療を行います。内科的治療としては様々な内服薬、点滴薬、注射薬があり、外科的な治療としては網膜光凝固(いわゆるレーザー)、や硝子体手術があります。
内服薬で使われているのは、血液の流れを良くする「抗凝固剤」、「抗血小板剤」や「血管拡張剤」などです。さらに血栓を融解させる目的で点滴として線溶療法(ストレプトキナーゼやt-PAなど)も行われてきました。しかし、多くの内服薬や線溶療法には確実な効果がないことがわかってきています。むしろ、線溶療法は副作用が問題視されている状況です。確実に治る薬がないなら使わないという考えもありますが、もともと網膜循環障害に適応のある「血管拡張剤」と、比較敵副作用の報告が少ない「抗血小板剤」などが使われることが多い現状です。
最近注目されているのは注射薬です。注射薬には2種類があり、ステロイド剤(ケナコルト)と抗VEGF剤(抗血管新生剤:ルセンティス、アイリーア、アバスチンなど)です。両剤とも、黄斑浮腫の軽減を目的に使われます。ステロイド剤はテノン嚢下注射といって眼球の後ろ側に注射する方法と、直接硝子体に注射する方法で使われます。抗VEGF剤は硝子体注射で用いられます。注射薬はこれまでの治療に比べ、黄斑浮腫が少なくなる効果が期待されています。ステロイド剤は抗VEGF剤より効果がやや少なく、硝子体注射の場合に眼圧上昇や白内障の増加などの副作用に注意が必要です。それでは、抗VEGF剤を使えばすべてが解決するのかといえば、最近の大きな調査では、1ヶ月〜2ヶ月に一度ずつ注射をした患者さんのうち、1年の経過で約6割に0.2〜0.3程度の回復が見られたという結果でした。残りの患者さんには大きな効果がなく、回復といっても元通りに治るといえるほどではないのが実情です。また、現時点では「網膜静脈閉塞症」に対してこの薬を使う保険適応はないので、大きな病院などで特別に使用している状況です。もうすぐ保険適応になるという情報もありますが、1回の注射に約15〜20万円弱の費用がかかる薬(3割負担なら約5〜6万円)なので、これを数回する場合は経済的負担も考える必要が生じます。

網膜静脈閉塞症

 外科的治療のうち、網膜光凝固(レーザー)が従来多く用いられてきました。「静脈閉塞症」即、光凝固ということをしていたドクターもいたぐらいです(本当は間違い)。しかし、上記の注射薬を使えるようになったことと、長期の観察で光凝固そのものの意義が少ないということがわかったことで、最近は適応を選んでのみ行われる傾向です。紙面の都合で詳しくは書きませんが、中心静脈閉塞症の虚血型や比較的広い範囲の網膜無還流野に対してと、長く続く黄斑付近の浮腫に対して行われています。硝子体手術も積極的にいろいろな術式が行われてきました。しかし現在は、黄斑浮腫を引き起こすような黄斑上膜がある場合や、網膜動脈が明らかに網膜静脈を圧迫しているところがある場合などに症例を選んで行われています。
自然に経過観察するだけで完全に治ってしまう場合もあれば、いかなる治療をもってしても視力低下が治せないところがあるのが「網膜静脈閉塞症」という病気です。わかりにくいことは多いと思いますが、またお尋ね下さい。