眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

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眼の病気 No.e157

投稿日 2021年6月1日

「乱視」とは(その1)

院長 廣辻徳彦

昨年はコロナウイルス感染のせいで学校が休みになり、学校での身体測定がほとんどの学校で延期になりました。今年度は同じ緊急事態宣言下でも、例年通りの身体測定や健診が行われています。5月は視力低下の指摘を受けた生徒さんが受診されたので、普段は全く密にならないはずの当院で、待ち時間がかかることになって申し訳ないところです。これまでも近視などの屈折異常については、何度かマンスリーで取り上げました。近いところでは昨年3月に近視の進行抑制についての記事を書いていますが、子供さんの視力や屈折状態を説明する際に「乱視」があると説明すると、かなり大ごとのように驚かれることがあります。もちろん屈折異常ですので「乱視」もないのがよいのですが、今まであまりページを割いたことがないので乱視について書いてみます。
 初めて読まれる方のためにも「屈折異常」ということについて書いておきます。人間の眼には、角膜と水晶体という2つの凸レンズがあります。人が遠くを見ている状態で、この2つのレンズでちょうど網膜にピントが合っている状態が正常でこれを「正視(下図:左)」と言います。網膜よりも近くにピントが合っていれば「近視(下図:中央)」、遠くにピントがあっていれば「遠視(下図:右)」と言います。網膜の後ろにピントが合っている

状態の時には、水晶体の厚さを分厚くしてピント合わせをする「調節」という力が働くので、軽い遠視の場合は遠くが見えるようなピント合わせができ、近くの物を見る時にもピントが合うようにできています。 
もし角膜や水晶体がガラス製品のようにきれいな凸レンズであれば、ひずみも全くないのでピントは一点に集中(=レンズの焦点)して、そこではっきりと見えることになります。遠視や近視があって網膜上にきれいにピントが合わない場合は、遠視であれば目の前に「凸レンズ」を置いてより近くにピントを合わせるように調整し、近視であれば「凹レンズ」を置いてより遠くにピントを合わせるように調整します。このような普通にピントが1点に合うような凸レンズ、凹レンズ(凹レンズの焦点は虚像ですが)を「球面レンズ」と呼んでいます。
しかし、人間の眼の角膜は機械ではないので完璧な凸レンズの形をしているわけでなく、わずかに歪みが生じています。それが乱視です。歪みがどのようなものかを表現する例えで、ラグビーボールを思い浮かべてください。ラグビーボールは楕円形になっているので、もしこの形のレンズがあれば縦方向から入ってくる光と横方向から入ってくる光の焦点がずれてしまうことになります。ラグビーボールほど極端に歪んでいる角膜はありませんが、

図のように縦向きに短い径、横向きに長い径がくるようにボールを置いたと仮定してみます。短い径の方のカーブが強く、長い径の方のカーブが弱いことになり、角膜でカーブの短い径に相当する軸を「強主経線」、長い径に相当する軸を「弱主経線」と言います。二つの軸は直角で交わります。強主経線を通る縦向きの光はカーブの強いレンズを通るので手前にピントが合い、弱主経線を通る横向きの光は後でピントが合います。一つの点でピントが合わないので、それぞれを前焦線、後焦線といい、二つの間にあるピントが一番小さくなるところを「最小錯乱円」と言います。最小錯乱円のところで一番ピントが合うとしても、一点にピントが合う場合に比べるとボケた状態になってしまいます。普通の「球面レンズ」を用いて乱視の矯正を試みても、前焦線、最小錯乱円、後焦線がそのまま前後するだけなので矯正効果が得られません。(次回は乱視をどんなレンズで矯正するかなどを解説します。)