眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

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眼の病気 No.e151

投稿日 2020年12月18日

物が二つにみえる時(複視について) その2

院長 廣辻徳彦

先月から「物が二つに見える=複視」ということについて書いています。「ボヤけて見える」とか「二重、三重に見える」という症状でなく、片眼では一つに見えているのに、両眼では二重に見えてしまう「両眼性複視」という症状を取り上げています。前回は紙面が尽きたので、その続きからです。眼球の筋肉図も再掲しておきます。

右眼の外眼筋の図です。左の図は前から、右の図は上から見たところです。①上直筋、②下直筋、③内直筋、④外直筋、⑤上斜筋、⑥下斜筋、を示しています。⑦滑車というのは頭蓋骨の眼のくぼみ(眼窩)の内上側にある上斜筋が通るための孔のことです。動眼神経(①、②、③、⑥)、滑車神経(⑤)、外転神経(④)という3種類の神経がそれぞれの筋肉に働いて、右眼と左眼とを共同して動かします。
近視か極度に強いために起こる内斜視もあります。近視では眼軸長と言って眼の前後の長さが正常より長くなってしまいます。特に強い近視では、正常では23mm程度の眼軸長が28mm以上になっていることもあります。実際の数は多くないものの、眼球が収まっている眼窩(ドクロの眼の窪んでいるところ)の大きさに比べて眼軸長が長すぎてしまうと、眼窩の中で眼球の動きが悪くなり内側によってしまう現象が起こることがあり、窮屈症候群といわれます。他にもヒステリーやうつ病が誘因となり、通常近くを見るときに自然に生じる寄り目の状態が解除できない輻輳けいれんという状態でも内斜視が起こります。これは頭蓋内の病気が原因のこともあるようです。
③上斜視(どちらかの眼が上に向いている状態、上下にずれる複視を自覚します)
 上斜視の中で一番多いのは上斜筋麻痺です。上図で⑤の筋肉が上斜筋で、眼の上方に位置し、眼窩の奥から眼窩前壁の内上方にある滑車(⑦のところ)で向きを変え、眼球の上方に斜め向きに付着しています。上斜筋は眼球を下方、内方に向かせ、同時に内側に回転(内旋)させます。上斜筋麻痺になればその向きの働きが悪くなるので、上方、外方に向き、外側に回転(外旋)してしまいます。右眼で上斜筋麻痺が起これば、右側(右眼にとって外方)を向く、左側に首を傾ける(右眼にとって外側の回旋が働く)と複視がましになります。先天性のこともありますが、脳内の循環障害、脳腫瘍、糖尿病による神経障害、外傷など様々な原因で起こります。上斜筋麻痺は、特に小さい循環障害や糖尿病が原因の場合、自然に軽快することが多い病気です。外斜視を引き起こす外転神経麻痺もそうなのですが、脳腫瘍などが否定できる場合は、3ヶ月ほどは治療せずに経過観察します。半年以上待っても複視が残り、プリズム眼鏡などでも矯正できない場合には手術治療も選択肢に入ってきます。
 脳幹や小脳というところで血管障害、腫瘍、神経疾患が生じて斜偏位という状態になることがあります。この場合は上下での眼球運動のバランスが悪くなって上下にずれる複視が起こります。
④その他(一定の眼位ズレではない変化)
 甲状腺機能亢進症という甲状腺ホルモンが高値になる病気であったり、ホルモン値が正常でも甲状腺に関する自己抗体が存在したりすると、甲状腺眼症という状態が起こることがあります。眼瞼腫脹や浮腫、結膜充血、眼瞼後退、眼球突出や眼球運動障害が主な症状です。眼球周囲や脂肪組織、筋肉内で炎症が持続して腫脹や浮腫、充血が生じ、外眼筋の組織が肥大して眼球運動障害を引き起こします。比較的朝に症状が強いことが多く、治療として、ステロイド剤の内服や点滴、注射、症状が強い時は手術も行います。
 神経から筋肉に情報の伝達が行われる神経筋接合部というところで、筋肉にある受容体が自己抗体によって障害されてしまう重症筋無力症という病気があります。神経の命令に筋肉が反応してくれず、全身の筋力低下や易疲労感のほか、眼瞼下垂や眼球運動障害による複視が出現します。眼にだけ出る場合を眼筋型、全身に出るタイプを全身型といいます。眼筋型では目を使っていると眼瞼下垂や複視の症状が強くなる傾向があり、休むと回復します。朝よりも夕方に症状が強くなるのも特徴で、ステロイド剤や免疫抑制剤を中心に治療します。
 複視にもいろいろなタイプがあります。当院で診断、治療が難しい場合は神経眼科専門医に紹介もいたします。