眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療社団法人 広辻眼科

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眼の病気 No.e145

投稿日 2020年6月1日

小児の眼疾患(網膜芽細胞腫)

院長 廣辻徳彦

4月、5月と休校措置が取られていたせいで、学校での身体測定や健診も行われない状況です。今月から学校は再開しますが、学内の環境がこれまで通りに戻るわけではありません。教育課程履修のために夏休みの短縮があるということも聞きます。先生も生徒も親御さんにとっても、経験したことのない新学期になりそうです。
今回はもう少し小さな子供に見られる病気、網膜芽細胞腫について書いてみます。今まで取り上げなかったのは症例数が比較的少ないことと、私たちのような町のクリニックではまず経験しないものだからです。テレビドラマや小説で見聞きすることもあるので、名前は聞かれたことのある疾患だと思います。この病気は小児がんと言われる白血病や脳腫瘍、リンパ腫、神経芽腫、胚細胞腫、性腺腫瘍などの一種で、大人にできた報告例はあるものの非常にまれです。その特徴を教科書的にまとめてみると以下のようになります。
・日本での発症は年間に70-80人(出生15,000-20,000人に一人なので発症数は減る傾向かもしれません)。
・95%は5歳以下で発見され、片眼性は60-70%、両眼性が30-40%。
・「RB1遺伝子」という細胞分裂に関与する遺伝子の異常が同定されています。両眼性に発症する場合はほぼ全例にこの遺伝子の異常があり、遺伝性があるため多くは1歳以下で発見されます。片眼性に発症する場合は多くは遺伝子に関係のない孤発例であり、2、3歳での発見が多いとされています。
この病気は網膜に腫瘍ができるので、進行すると(=腫瘍が大きくなると)視野の欠損や視力低下が起こるのですが、乳幼児はその訴えができません。家族でこの病気の診断を受けている人がいれば遺伝子の検査と眼底検査で早期に発見できるも可能性がありますが、そうでない場合は、腫瘍が大きくなると外から入った光が腫瘍と網膜に反射して瞳孔(ひとみ)の中が白く見える現象(白色瞳孔:キャッツアイ)であるとか、視力が低下することによって生じる斜視といった、別の所見に家族が気づいて発見されることがほとんどです。他にはまぶたの腫れ、結膜充血などで発見されます。検査は直接眼底を見る眼底検査や、エコー、CT、MRIなどを行います。全身への転移を疑う場合は髄液検査や骨髄検査、全身CT、PET、骨シンチグラフィーなども必要となります。
この病気は小児がんの一種であり悪性度の高いものです。治療は救命が第一で進行例では眼球摘出も必要となりますが、現在は眼球を温存すること、視機能をできるだけ保つことを考えた治療方針が立てられます。眼球内にとどまった状態で治療できれば生命予後が良いのですが、転移していれば全身への化学療法などが必要になります。全体の5年生存率は90%以上と比較的高いものの、転移例の治療は未だに困難なことが多いようです。
治療は片眼性か両眼性か、腫瘍の大きさやその数、網膜内腔の硝子体内への播種(腫瘍細胞が散らばること)や網膜剥離の有無、緑内障の併発の有無などを考慮して選択されます。
・レーザー治療:比較的小さい場合に赤外線レーザーを直接照射する温熱療法
・冷凍凝固:-80℃で主要を冷凍凝固、比較的小さく、あまり後方でない場合に適応となる
・小線源療法:視神経乳頭周囲以外での限局病変に対して106Ru(ルテニウム)の線源を強膜外側に逢着
・選択的眼動脈注入療法:カテーテルを用いて眼動脈に選択的に抗がん剤を注入
・硝子体注射:硝子体内に播種した腫瘍細胞に対して、抗がん剤を眼球内に注射する療法
・眼球摘出:進行例や眼外への転移が考えられる場合、温存療法後の再燃などの場合に行う。
(摘出後には義眼が必要となります。)
この病気に限らず小児の病気は本人の訴えが明確でなく、病気が理解できず検査や治療に強力が得られにくいこと、親御さんへの負担も大きいことなど、治療そのものの難しさだけでないこともあります。下の写真は網膜芽細胞腫の家族の会である「すくすく」さんの資料から引用した白色瞳孔の写真です。スマートフォンの撮影で白色瞳孔が見つかることもあるそうです。滅多にない病気ではありますが、ご参考にしてください。