眼の健康とコンタクトレンズの専門医 医療法人社団 広辻眼科

(受付)午前8:30〜 午後2:00〜 (休診)土・日・祝祭日・年末年始 ご予約・お問い合わせ0797-72-6586

眼の病気 No.e191-2

投稿日 2024年5月1日

黄斑部とその病気(その1)

院長 廣辻徳彦

黄斑部とは網膜の中心部にあって、視力や色覚にとって重要な働きをしている部分です。これまでも何回か黄斑部の病気を書いてきましたが、一度まとめてみようと考えました。過去の記事と重なるところがあることと、内容が多くなるため2回に分かれることをご容赦ください。
網膜のことは1年前にも書いていますが、眼球の内側約3分の2程度の面積を占めていてフィルムのように光を感じる働きをしている膜です。その網膜の中央部、眼底写真では赤味を帯びている直径1.5-2mm程度の部分を臨床的に「黄斑部」といいます。「臨床的」というのは、医師が実際に患者さんに接して診断したり説明したりする状態や状況のことです。解剖学の教科書では、網膜の中心から直径1.5mmの部分は「中心窩」といい、直径約5.5-6mmの部分が「黄斑部」だと書かれています。このマンスリーで黄斑部というのは臨床的な範囲であるとお考えください。下図左は眼底写真で黒丸が黄斑部(点線は解剖学的黄斑部)です。中央は眼球の断面図で、楕円の部分の網膜をOCTという検査で撮影したのが右図です。中央凹んでいるところが黄斑部です。黄斑部の名前に「黄」という字があるのは、黄斑部に黄色の色素であるキサントフィルの仲間のルテインやゼアキサンチンを豊富に含まれているからです。黄斑部には視力や色覚にとって重要な細胞があるので、病気になると「視力低下」や「ものが歪む」、「色の見え方が変化する」などの症状が出ます。以下、いくつかの黄斑部の病気について書きます。

1 黄斑上膜:この病気は網膜の上方(見方によっては前方)に薄い膜が張り、それが引きつれて縮むことで網膜の表面にしわを作ってしまう病気です。黄斑前膜や網膜上膜(前膜)とも言われます。網膜の表面にしわができるので、「ものが歪んで見える(変視症、歪曲視)」症状を自覚し、進行すると視力も低下します。50-70歳代で起こることが多いのですが、加齢に伴って起こる「後部硝子体剥離」という現象の際、硝子体の薄い膜が網膜上に残り、その膜が網膜に対して水平方向に縮むために生じます。ぶどう膜炎や網膜剥離、眼内手術、外傷などが原因になることもあります。眼底検査(下図左:黄斑部の白い膜が黄斑上膜)で見つかりますが、OCTで自覚症状のないうちから発見でき、進行状態の観察もできます。下図中央は黄斑上膜のOCTで、凹んでいるはずの黄斑部が引きつれて盛り上がっていますのがわかります。変視症の増悪や視力低下の進行があれば硝子体手術を行います。
2 黄斑円孔:黄斑部に直径0.1-0.5nn程度の小さな穴が開く病気です。網膜の中心部である黄斑部に穴が開くので、見ようとするところが見えにくくなったり(視力低下)、物が歪んで見えたりします。50歳以上の年齢に起こることが多く、女性、高齢者、強度近視で割合が高くなる傾向です。この病気にも硝子体が関わっていて、中高年になって起こる硝子体の収縮や、後部硝子体剥離に伴って黄斑部が垂直方向に引っ張られ、その力が強くなったときに小さな穴ができます。眼球打撲などの外傷が原因になることもあります。これも眼底検査とOCTで検査します。この病気は放置すると穴の開いた部分の細胞が障害されるので、硝子体手術で穴を塞ぐよう治療します(多くは白内障手術を同時に行います)。下図右は黄斑円孔のOCTで中央部に隙間が観察されます。以下は次号で。