眼の異常からわかる脳の病気
院長 廣辻徳彦
私たちが何かを見る時には、眼に入った光の情報は網膜で受け取られ、網膜視神経を通って脳へ送られ、そこで初めて「見える」と認識されます。また、左右の眼の動きや、瞳孔(ひとみ)の大きさの変化にも脳が関わっています。そのため、脳梗塞や脳出血(いわゆる脳卒中)や腫瘍などの脳の病気で、眼に症状が現れることがあります。一昨年、脳について記事を書きましたが、もう一度脳のどこに異常が起こると、眼にどのような変化が現れるのかを、眼に現れる代表的な5つの症状(①〜⑤)から考えてみます。普通、「脳」というと下図に示す「大脳」の部分を思い浮かべますが、大脳以外にも、いくつかの部分に分かれています。脳の各部分の説明を簡単に記しておきます。

・大脳:前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉の4つの部位からなり、人格、記憶力、情緒、判断力などの高等な機能を担う。
その中で、後頭葉は視覚情報を処理する「視覚野」として働きます。
・間脳:視床と視床下部などからなり、視覚情報の中継や自律神経の調節に関係します。
・脳幹:中脳、橋、延髄からなり、中脳は眼球運動に関わる神経の経路で、瞳孔の調節に関係します。橋は左右の目を同じ方向に動かす働きや瞳孔の大きさの調節に関係し、延髄には呼吸や循環の中枢があり、眼振や嚥下(飲み込み)に関係します。
・小脳:身体のバランスを保ち、スムーズな眼球運動に関わります。
①(急に)視野が欠ける:眼から入った情報は、最終的に「後頭葉」に届いて見えると認識されますが、この部分で病気が起こると、眼球に異常がないのに視野の一部が見えなくなります(=視野欠損)。例えば左の後頭葉が大きく障害されると、左眼が見えなくなるのではなく、左右の眼のそれぞれの右半分の視野が見えにくくなってしまいます。これが「同名半盲」と言われる状態で、後頭葉の障害に特徴的な症状です。眼科を受診して、視野検査の結果から脳の病気が見つかることもあります。
② 両眼が同じ方向を向く(同じ方向に向いて動かない):左右の眼の動きは、大脳から脳幹へ送られる命令でいつも同じ方向を向いて動くように調節されます。しかし、脳卒中などの急な病気で大脳半球に大きな障害が出ると、左右の眼がそろって一方向を向いたままになる「共同偏視」という症状が起こります。この場合、一般に眼は脳の病気が起こった方(病変側)を向きます。一方、脳幹の「橋」が障害されると病変の反対側を向くようになります。急に眼の動きが一方向を向いてしまった時、救急医療の現場で、眼がどちらを向いているかで脳のどこが障害されたのかを推測する手掛かりにもなります。(ただし、てんかんなどの病気の場合は、大脳の刺激でも病巣の反対側を向くこともあります。)
③ 物が二重に見える:眼球を動かす筋肉には、脳幹から出る動眼神経、滑車神経、外転神経という神経を通して命令が伝えられています。左右の眼は常にほぼ同じ場所を見ていますが、眼を動かす神経の異常で左右の眼の見る場所がずれると、物が二つに見える「複視」が起こります。脳幹の小さな脳梗塞などで、これが起こります。糖尿病や高血圧なども、いわゆるリスクファクターになります。
④ 瞳孔の大きさが異なる:瞳孔は明るいところでは小さく(縮瞳)、暗いところでは大きくなります(散瞳)。これには自律神経が関係し、自律神経の経路は脳幹を通っているので、脳幹の病変で瞳孔に異常が現れることがあります。橋に出血が起こると、両側に著しい縮瞳が起こります。反対に片側の瞳孔が大きくなったり、左右差が生じたりすることも、脳の異常を考える重要な手掛かりになります。動眼神経という神経が麻痺してしまうと、③で書いた複視のほかに散瞳が起こることもあります。
⑤ 眼が揺れる(眼振):自分では動かしていないのに眼球がリズミカルに動く現象を「眼振」といいます。眼振は耳の平衡感覚に関する内耳というところの器官の異常でも起こりますが、小脳や脳幹の病気でもみられます。小脳は身体のバランスを取るほかに、眼球の動きを滑らかに調節する役割を持ちます。そのため小脳の病気では、めまいやふらつきとともに眼振が現れることがあります。脳幹の延髄外側に脳梗塞が起こる「ワレンベルグ症候群」という病気でも、強いめまいや眼振、ふらつきが起こります。さらに飲み込みにくさや声のかすれ、顔や身体の感覚異常、片側の瞳孔が小さくなるなど、一見関係なさそうな症状が組み合わさることがあります。狭い脳幹の中に多くの神経の通り道が集まっていることが原因となります。
いくつかの症状と病気を紹介しましたが、眼球そのものに病気がなくても、脳に障害が起こることで眼に症状が起こる頃があるのです。「目は心の窓」という言葉がありますが、眼は脳と密接に関わっているので、「眼は脳の病気がわかる窓」という存在と言えそうです。





